第15回山田風太郎賞受賞作品が発表
2024年10月21日、東京の東京會館にて開催された第15回山田風太郎賞の選考会で、蝉谷めぐ実著『万両役者の扇』が受賞作に決定しました。この文学賞は、株式会社KADOKAWAが主催しており、日本の大衆文学における新しい才能を顕彰するために設立されました。選考委員には、著名な作家たちが名を連ね、特に今作の臨場感や表現力について高い評価を得ました。
選考委員からの評価
選考会では、恩田陸氏が欠席選考委員の代表として選評を行いました。彼は「ぶっちぎりの満場一致」と評価し、江戸時代の役者や芝居小屋の雰囲気を生き生きと描写している点を賞賛しました。特に、作品における役者の「芸に対する凄み」が巧みに筆に表現され、読者をその世界に引き込む力強さがあると指摘しました。このような評価は、読者にとっても一読の価値があると言えるでしょう。
蝉谷めぐ実のコメント
受賞が決まった瞬間、蝉谷氏は「今までの歌舞伎への思いをすべて込めた作品で、この賞をいただけて本当に嬉しい」と感謝の気持ちを表しました。また、作品制作に際しての自身の思いや葛藤についても述べ、「人間を外れることができるかを考えるタイプで、作中の役者たちとの共通点が見えた」と話しました。
こうして彼女は作家としての使命感を再確認し、今後新しい題材にも挑む意欲を見せました。
賞品について
山田風太郎賞の受賞者には、名入り万年筆が記念品として贈られるほか、賞金として100万円が授与されます。この日を祝う贈賞式と祝賀会は、11月下旬に都内で行われる予定です。また併せて、KADOKAWAが主催する「第44回横溝正史ミステリ&ホラー大賞」と「第15回小説 野性時代 新人賞」の贈賞式も開催されることが発表されました。
蝉谷めぐ実の経歴
蝉谷めぐ実は1992年生まれで、大阪府豊中市出身の若き作家です。早稲田大学文学部にて演劇映像を専攻し、卒論では化政期の歌舞伎について考察を行った経験も持ちます。2020年には『化け者心中』でデビューを果たし、その後も数々の文学賞を受賞しています。多様かつ深いテーマを扱った作品を次々と世に送り出し、早くも名実ともに注目される作家となっています。
『万両役者の扇』の内容
本作『万両役者の扇』は、江戸時代の森田座を舞台にした物語で、気鋭の役者・今村扇五郎とその周囲の人々の狂気じみた愛憎劇を描いています。主人公お春の波乱万丈な物語は、ひとつの命を賭けた芸への情熱が生み出す葛藤と、虚実が入り混じる独特な舞台設定が魅力です。特に、エンターテインメントとして楽しめる一方で、深い社会的テーマを含んでいる点が高く評価されています。
この作品は単なるエンターテインメント作品ではなく、我々の心に問いかける深遠なテーマを持った一冊でもあります。読者はページをめくるごとに、江戸の芝居の世界に連れて行かれ、芸のために生きる人々の熱烈な情熱を感じるでしょう。かつての歌舞伎に思いを馳せると共に、現代の我々がどのようにこの文化を受け継いでいくのかを考えさせる作品です。