生体モーターが創り出すアクティブポリマーの自発的スパイラル運動の謎を解明
岐阜大学の新田高洋教授らの研究チームは、生体分子モーターが駆動するアクティブポリマーの自発的なスパイラル運動の仕組みを解明しました。アクティブポリマーは、生物のような振る舞いを示し、特に先端をピンで固定することで回転運動を行い渦巻き状の構造(スパイラル)を形成します。この研究は、細胞内における構造形成や物質輸送の理解に新たな視点を提供すると同時に、ナノ輸送デバイスやマイクロロボットの設計にも寄与する重要な知見をもたらしました。2025年7月1日には、Scientific Reports誌で成果が発表される予定です。
生体分子モーターの役割とアクティブポリマーの特性
細胞内には、細胞骨格と呼ばれる蛋白質フィラメントが存在し、力発生や物質輸送を担っています。生体分子モーターは、これらフィラメントをレールとして利用し、さまざまな機能を果たします。研究チームは、これらのフィラメントと生体分子モーターを人工的に再構成し、アクティブポリマーを生成しました。アクティブポリマーは合成された高分子とは異なる振る舞いを示し、特にその先端を固定することでスパイラルを形成することが確認されました。
スパイラル運動の二つの様式とその条件
研究では、フィラメントの先端を固定した際に生じる二種類の運動様式—「停止」状態と「スパイラル」状態の発生条件を明らかにしました。モーターの密度やフィラメントの長さによって、これらの運動様式は大きく変わります。具体的には、あるモーター密度とフィラメント長で「停止」を示し、別の条件下でスパイラルを形成することが確認されています。当初の状態からの変化を観察することで、スパイラル形状の発生条件も特定されました。
スパイラルの形成過程の詳細
スパイラルの形成は、フィラメントの固定端近くで生じる局所的な曲がりから始まります。この局所的な曲がりが次第に大きくなり、フィラメント全体がスパイラル状に巻かれていく様子が観察されました。数理モデルによるシミュレーション結果は、実験結果と非常に良い一致を示し、スパイラル形成の理論的背景を強化しています。
今後の展望と応用の可能性
本研究の成果は、アクティブポリマーがスパイラル構造を形成する際に生体分子モーターの弾性が果たす重要な役割を示すものであり、ナノ輸送デバイスやマイクロロボットの設計に貢献することが期待されます。今後はモーターの密度を調整することで、構造の健全性を保ちつつ、効果的な物質輸送やデバイス設計の実現を目指す研究が進むことでしょう。
論文情報
発表雑誌:Scientific Reports
論文タイトル:Active spiralling of microtubules driven by kinesin motors
著者:Douglas Kagoiya Ng’ang’a, Samuel Macharia Kang’iri, Henry Hess & Takahiro Nitta
DOI:10.1038/s41598-025-03384-y