AIによる健康診断リスク予測の新たな取り組み
NECソリューションイノベータ株式会社と倉敷中央病院が共同で開発したAIが、健康診断の結果をもとに11種類の疾患リスクを同時に予測することに成功しました。この研究は「AJPM Focus」に掲載され、多くの注目を集めています。
1. 研究の必要性
現代は「人生100年時代」と呼ばれ、高齢化が進んでいます。これに伴い、健康寿命の延伸と生活の質の向上が重要視されています。
「診断・治療の医療」から「予防医療」へのシフトが求められ、特に年齢が高くなるほど複数の疾患を抱えるリスクが増加します。特定の疾患にだけ注目してしまうと、他のリスクを見過ごすことになりかねません。そこで私たちは、包括的な健康管理が可能なAIの開発に着手しました。
2. 研究内容の概要
このプロジェクトでは、倉敷中央病院が保有するカルテデータと健康診断情報をもとに、糖尿病や高血圧症、脂質異常症などのリスクを予測します。解析対象となったのは、2012年から2022年にかけて同病院で健康診断を受けた92,174名。データをランダムに分け、50%を学習データ、25%を一次評価、残りの25%を最終評価として使用しました。
このプロセスで、Cox比例ハザードモデルを用いてAIの構築が行われました。
3. 予測の精度
AIは11種類の生活習慣病に対するリスクを4年以内に予測し、AUC(曲線下面積)が0.7以上という高い精度を達成しています。このAIは、一度の健康診断から複数の疾患リスクを判断できる点が特長です。
特に、動脈硬化と脳梗塞、急性心筋梗塞と心不全との関連性が高いことも明らかになりました。
一方で、肝疾患の場合は他の病気との関連性が低く、注意が必要です。
4. 今後の活用
この予測AIは「NEC 健診結果予測シミュレーション」というサービスに組み込まれ、個別の健康状態に応じた検査推奨や生活習慣改善の提案を目指しています。
健康診断を通じ、疾患の発症前に健康状態を把握できることは、医療現場にとって非常に重要です。
5. 論文の詳細
この研究については、「AJPM Focus」2024年3月号に掲載されています。
著者には、NECソリューションイノベータの安田光佑氏や倉敷中央病院の予防医療プラザ所長である菊辻徹氏が名を連ねています。彼らは、電子カルテとリアルワールドデータを活用して予防医療の進展に寄与することを目指しています。
今回の AIの開発は、医療の効率性と精度を向上させる大きなステップであり、より多くの患者に良質な医療サービスを提供する助けとなるでしょう。
生涯にわたる健康の維持と改善、そしてより良い生活を送るための新たな手段として、今後の進展が期待されます。