日本海堆積物と花粉化石の研究
近年、日本海における堆積物の研究が進んでおり、その中に秘められた森の変遷や気候パターンに関する貴重な情報が得られています。琵琶湖博物館の林竜馬専門学芸員と北海道大学の入野智久准教授による共同研究が、国際的な学術誌『Progress in Earth and Planetary Science』に掲載され、その成果が注目を集めています。
研究の背景と目的
この研究の目的は、琵琶湖地域の森の変動と海の環境の関係を探求することです。研究者たちは、日本海の大和海盆北部から採取したKR07-12 PC-07堆積物に含まれる花粉化石を分析し、過去の気候変動を明らかにしました。特に、日本海の「暗色層」と呼ばれる堆積物が、東アジアモンスーンによる温暖化時期に形成されたことに注目が集まりました。
研究結果の概要
の結果、研究チームは温暖化時期に日本列島の森から約300kmも離れた日本海まで、多くの花粉が運ばれたことを発見しました。この花粉は、琵琶湖地域から来たものであり、日本海の堆積物にはスギやブナなど日本固有の樹木の花粉が多く含まれています。特に注目すべきは、温暖化時期の中において、スギ花粉が支配的となった時期と、落葉広葉樹花粉が支配的な時期が存在することです。これにより、それぞれの時期に異なる気候パターンが成立していたことが示されています。
花粉化石のパターン
研究者たちは、日本海暗色層から得られた花粉化石に基づいて、二つの異なる花粉化石パターンを特定しました。ひとつは、スギ花粉が優占する「Cry-DL」と呼ばれる層で、もうひとつは落葉広葉樹花粉が優占する「TDB-DL」です。Cry-DLの堆積時期は、降水量が多く季節差の少ない気候であり、一方TDB-DLの堆積時期は季節差の大きい気候であったと考えられています。このことから、日本列島にはスギが支配的な森と、落葉広葉樹が支配的な森という二つの異なる環境が存在していたことが確認されました。
研究から得られた意義
この研究により、琵琶湖周辺の森の変遷は過去の気候変動によって大きく影響されてきたことが示されました。また、海洋環境の変化が降水パターンに与える影響も重要な要因として捉えられています。分析結果は、今後の森と海の関係を理解する上で大きな手がかりとなるでしょう。陸上および海洋の堆積物から得られた花粉化石を通じて、今後さらなる新しい知見が期待されます。
本研究成果は、琵琶湖博物館のホームページにて詳しく解説されています。興味のある方はぜひご覧ください。