ラットが手に懐く仕組みを岡山大学が解明
2025年6月、国立大学法人岡山大学はラットがヒトの手に懐く際の神経回路メカニズムを明らかにしました。この研究は、オキシトシンというホルモンが重要な役割を果たしていることを示しており、動物介在療法(アニマルセラピー)や愛着障害に関する新たな理解を提供するものです。
研究の背景と目的
この研究は、岡山大学大学院自然科学研究科で進められているプロジェクトの一部であり、特に若年期から思春期のラット同士の「じゃれあい」を模した実験が行われました。この実験では、研究チームがヒトの手によるハンドリングを通じて、ラットに愛着を示させるプロセスを観察しました。
オキシトシンと愛着行動
研究の結果、ラットがヒトの手に愛着を持つためには、視床下部腹内側核(VMHvl)におけるオキシトシン受容体の活性化が不可欠であることが発見されました。ハンドリングを受けたラットは、快感の証拠として超音波を発声し、自らヒトの手に近づくことが示されました。これは、ラットがヒトに対する愛着を形成する重要な段階です。
薬理遺伝学の応用
さらに、研究チームは薬理遺伝学(DREADDs)技術を用いて、VMHvlのオキシトシン受容体を持つニューロンの機能を一時的に抑制しました。この操作により、ラットのヒトの手に対する愛着行動が減少し、オキシトシンの強力な影響を裏付けました。
社会的絆の形成
この研究は、心地よい触覚刺激がオキシトシンを介して社会的絆を形成するという新たな知見を提供します。今後の動物介在療法における応用や、愛着障害への新たなアプローチにつながるものと期待されています。
研究の意義
坂本浩隆教授や林姫花特任助教は、研究を通じて、ラットとヒトの絆形成のメカニズムを解明し、これがアニマルセラピーなどの実践にどのように応用できるかについての新しい視点を提示しています。特に、人間や動物がオキシトシンを介してどのように結びついているかを理解することで、自閉症支援などの領域においてもポテンシャルが広がります。
今後の展望
研究結果は、国際学術誌「Current Biology」に掲載され、今後の研究や実践に大きな影響を与えることが期待されます。岡山大学のこの取り組みは、科学技術の革新を促進し、岡山地域の知識基盤を強化する役割を果たします。
この研究は、一見単純に思える関係の裏に、深い科学的メカニズムが隠れていることを示してくれました。愛情ホルモンが織り成す結びつきは、私たち人間の感情や行動にも強く関与しているのかもしれません。今後の研究に注目です。