群れの力と遺伝基盤
2025-07-08 10:29:13

ショウジョウバエによる群れの力の神秘に迫る遺伝的基盤の解明

集団行動と遺伝基盤の新発見



千葉大学の国際高等研究基幹と大学院理学研究院に所属する佐藤大気特任助教と高橋佑磨准教授による研究チームが、ショウジョウバエを用いて新たな集団行動のメカニズムを明らかにしました。本研究では、神経メカニズムや遺伝的基盤に迫ることで、恐怖反応がいかに集団に影響を与えるかを探求しています。

研究の背景


生物は、大規模な集団行動によって外敵からの防御や餌の効率的な獲得を実現しています。しかし、これらの集団行動を支える神経メカニズムや遺伝的基盤はまだ解明されていない部分が多いです。これまでの研究では、個体の特性と遺伝的変異の関連性に焦点を当てていましたが、集団の特性にこれを応用するのは困難でした。そのため、研究チームはショウジョウバエを用いて、視覚的脅威に対してどのように集団行動が変化するのかを探りました。

研究成果の詳細


約100系統のショウジョウバエを使った実験では、捕食者を模した視覚刺激に対し、個体がどのように反応するかを観察しました。結果として、単独では強い恐怖反応(瞬間的な動きの停止)を示す一方、集団では他の個体と同調することで恐怖反応が緩和されることが分かりました。

遺伝的要因を調べるため、ゲノムワイド関連解析を実施し、特に神経の発達に関与する遺伝子Ptp99Aを特定しました。この遺伝子は、視神経関連の機能に関わっている可能性が示唆されました。

行動の多様性がもたらす集団の優位性


研究のさらなるステップでは、異なる遺伝子系統を持つショウジョウバエを混合した集団を作り、同様の実験を行いました。興味深いことに、混成集団は刺激に対してより強い恐怖反応を示すことが分かりました。これらの実験を基に、Agent-based modelを用いて、個体間の行動多様性がどのように捕食者からの攻撃を減少させるかをシミュレーションしました。

シミュレーション結果は、行動の多様性と同調が集団としての生存能力を高めることを裏付けています。特に、個体のフリージング時間の多様性が捕食者に襲われにくい状況を生むという発見は、進化の観点からも興味深いものです。

新たな解析手法:GHASの提案


本研究チームは、集団行動の遺伝基盤を理解するための新たな手法、ゲノムワイド高次関連解析(GHAS)を開発しました。これにより、混成集団における遺伝的多様性と集団行動の創発性との関連を明らかにすることが可能になりました。

今後の研究展望


この研究は、集団行動とその遺伝的基盤の理解を進展させる重要なステップです。今後は、他の生物種や生理現象にもパラダイムを広げ、より深いメカニズムの解明に取り組む計画です。本研究の成果は、単純な生物においても遺伝的および神経の多様性が集団行動やサバイバル戦略に影響を与えることを示し、新たな進化的な視点を提供しています。

用語解説


  • - GWAS(ゲノムワイド関連解析): 個体の特徴と遺伝的変異との関連を調査する手法。
  • - Ptp99A: 神経細胞の働きを調整する遺伝子。
  • - Agent-based model: 生物の行動をシミュレーションする技術。

本研究は、Nature Communicationsにおいて2025年7月に発表される予定です。


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