アゾール系抗真菌薬の新たな役割
近年、マルチキナーゼ阻害薬(MKI)における新しい治療法が注目されています。特に順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所の研究チームによって、ソラフェニブが引き起こす副作用に対してアゾール系抗真菌薬が非常に重要な役割を果たすことが示されました。
手足症候群(HFSR)とは?
マルチキナーゼ阻害薬の主な副作用の一つが、手掌や足底の皮膚における過角化や痛みのある水疱が出現する手足症候群(HFSR)です。この症状は、治療を受ける患者さんにとって非常に辛いものです。特に、日常生活において支障をきたすこともあるため、適切な対処法が求められています。しかし、これまでのところHFSRの発症メカニズムや完治するための根本的治療法は不明でした。
研究の概要
研究チームはまず、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を使って、ソラフェニブが引き起こす細胞毒性を確認しました。その結果、ソラフェニブは他のMKIと比較して特に強い細胞毒性を持つことが分かりました。さらに、アポトーシス(計画的細胞死)の促進がソラフェニブの作用に関連していることも明らかになりました。
次に研究チームは、アゾール系抗真菌薬であるイトラコナゾールとケトコナゾールが、このアポトーシスを抑制できることを発見しました。この発見は、アゾール系抗真菌薬がソラフェニブによる細胞障害を緩和する可能性を示しており、これまでの対症療法に新しい治療の道を開くものです。
具体的な研究成果
研究の中で、アゾール系抗真菌薬がソラフェニブによる表皮細胞の毒性を抑えるメカニズムが解明されました。ソラフェニブの投与によってアポトーシス阻害因子であるcIAP-1の発現が低下し、一方でイトラコナゾールはその発現を回復することがわかりました。また、ソラフェニブがインターロイキン-1αなどの炎症性サイトカインを増加させるのに対し、イトラコナゾールがその遊離を抑制していることも確認されています。
さらに、外用薬としてのケトコナゾールがHFSR患者に投与された結果、症状が改善することが確認され、アゾール系抗真菌薬が新たな治療法として有望視されています。
今後の展望
この研究成果は、マルチキナーゼ阻害薬に起因する手足症候群の治療に革新的なアプローチを提供しています。今後、他のMKIに対する同様の治療効果を検証するための研究が進められ、その有望な効果がさらに幅広く確認されることが期待されます。このアプローチが広く普及すれば、HFSRの患者にとって非常に有益で、低コストな治療法がもたらされることになるでしょう。
まとめ
今回の発見により、従来は対症療法しか選択肢のなかったHFSRに対して、多くの期待が寄せられています。今後も研究が続き、この治療法が多くの患者のQOL(生活の質)を向上させることを願っています。