高齢心不全患者の自立リスクを予測するAIモデルの開発
はじめに
近年、高齢者の心不全は急激に増加しており、心不全患者が退院後、自立した生活を送れるかどうかが大きな課題となっています。本研究は、順天堂大学の保健医療学部理学療法学科のチームが中心となり、退院後1年の時点での機能的自立を失うリスクを、AIを活用して高精度に予測するモデルを開発したことを報告します。
研究の背景
心不全患者の退院後の生活の質(QOL)は、生命予後と同じくらい重要です。これまでの研究は、主に死亡リスクや再入院に焦点を当てており、退院後にどのくらい自分で生活できるかを予測する手法は不足していました。高齢の心不全患者は、多様な要因に影響を受けやすく、複雑な状況にあります。従来の統計的モデルではこれを十分に捉えられないため、AIを活用することで新たな可能性が期待されていました。
研究の内容
本研究では、国内96施設からおよそ1万例の高齢心不全患者のデータを基に、機械学習モデル(XGBoost)を開発しました。研究対象は、入院前は自立していた65歳以上の高齢者で、その中から6,382人のデータを解析しました。バーセルインデックス(BI)やSPPB(Short Physical Performance Battery)といった客観的な身体機能データを用いて解析した結果、開発したAIモデルは、既存のスクリーニングツールよりも高い予測精度を達成しました。
リスク群の同定
特に注目すべきは、死亡リスクは低いものの、一年以内に57%の患者が身体機能を失うという新たな「低死亡・高機能低下リスク群」を明らかにしたことです。これは、従来の死亡リスクに着目した評価だけでは見過ごされていた重要な情報であり、「生存しても自立を失う危険性」を示唆しています。この知見は、心不全患者の治療に新しい視点を与えるものです。
今後の展開と期待
この研究の結果は、退院時に高リスクの患者を客観的に特定し、個別化されたリハビリテーションプランを提供する可能性を示しています。特に、新たに同定された「低死亡・高機能低下リスク群」の患者には、効率的な医療資源の配分が必要とされます。
今後は、この予測モデルを日常診療に活用するため、Webアプリケーションの開発も進めており、具体的な医療スタッフの支援を目指しています。
この研究が、患者の生活の質(QOL)の向上に寄与し、より良い心不全診療へとつながることが期待されています。
研究の成果と今後の方向性
本研究は、『Journal of Cardiac Failure』にて2026年8月20日付で発表され、心不全患者の生活の質を守るための新たなアプローチとして注目されています。今後も、研究を深化させ、さらなる成果を社会に還元していく予定です。