ハエの多様性が生む大胆な群れ行動のメカニズム
千葉大学の研究チームによる最新の研究成果が、ハエの群れ行動における個性や多様性の重要性を明らかにしました。具体的には、約100種類のキイロショウジョウバエの成虫を用いて、個々の行動パターンの差が群れ全体の行動にどのように影響を与えるのかを詳しく調査しました。
研究の背景
自然界には、動物たちのダイナミックな群れ行動が広く観察されています。これまでの研究では、同じ種の個体は同じ特性を持つとされ、個性の存在は見逃されてきました。しかし、実際には昆虫や他の動物においても個体間で行動の違いが存在することが確認されています。この個体の行動の多様性が群れ全体の行動に与える影響を探ることが本研究の目的です。
研究方法
本研究では、異なる行動パターンを持つショウジョウバエの系統60頭を分類し、均質集団と異質集団を作成しました。均質集団は同じ系統の個体で構成され、異質集団は異なる系統の個体を混ぜ合わせて構成しました。こうした集団を小さな円形空間に導入し、5分間の観察を行いました。この間、行動の移動速度や探索の範囲、空間の好み、停止時間といった指標でハエの行動を解析しました。
研究成果
観察の結果、均質集団においては個体が空間の端を好む傾向が強く見られました。その一方で、異質集団では中央付近も活発に行動することが分かりました。このことは、空間の中央部に移動することが「大胆さ」を示す重要な行動指標であることを意味しています。特に、異質集団においては、大胆さが最大で約30%向上することも確認されました。
さらに、個体間の活動量に差があるほど大胆さが高まることも判明しました。この現象は「社会的促進」と呼ばれ、個体同士の影響が群れ全体の行動を変化させることを示しています。ハエが空間内を満遍なく探索することで、効率良く餌などの資源を見つける助けになると期待されます。
今後の展望
本研究は、個体の多様性が群れ行動において重要な役割を果たすことを証明しました。今後は、さまざまな動物においてもこのような個性の多様性が群れ行動に与える影響を詳細に調査し、個性の進化や多様性の効果的な活用方法を考察していく予定です。これにより、動物の行動理解が深まり、さらには多様性の重要性が社会的な文脈においても広く認識されることでしょう。
研究に関する用語解説
系統
系統とは、野外で採集された1つの雌から生まれた子孫の集団で、同じ遺伝的特徴を持つ個体たちを指します。
参考文献
- - Okuyama, T., Sato, D. X., & Takahashi, Y. (2025). Genetic heterogeneity induces non-additive behavioural changes in Drosophila. Journal of Experimental Biology. DOI: 10.1242/jeb.249449
- - Balanced genetic diversity improves population fitness. Proceedings of the royal society B. DOI: 10.1098/rspb.2017.2045
- - Is boldness affected by group composition in young-of-the-year perch (Perca fluviatilis)? Behavioral Ecology and Sociobiology. DOI: 10.1007/s00265-004-0834-1