水素触媒で環境改善
2024-06-27 16:43:46

水素で環境負荷削減!革新的な触媒技術が実現する持続可能な化学合成

水素で環境負荷を削減!革新的な触媒技術が実現する持続可能な化学合成



国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は、環境に優しい有機合成法として、高活性・高選択性を実現する金属ナノ粒子触媒と、連続生産フロープロセス技術を開発しました。

この技術は、新たに開発した固体触媒と新設計した連続フロー合成装置を用いて、水素と原料を直接反応させることで、顔料染料、医薬品、電池材料などのさまざまな機能性化学品を合成する方法です。産総研は、世界で初めて、水素を還元剤として用いた、ロイコキニザリンの連続生産フロープロセスを実現しました。

従来のロイコキニザリン合成法では、化学量論量の金属試薬を消費し、有害な廃棄物が発生していました。しかし、産総研が開発した手法では、長期間にわたり使用可能な触媒と環境に優しい原料である水素のみを使用するため、廃棄物を排出せず、環境負荷の低い有機合成を実現します。

さらに、連続フロー水素化反応に使用する溶媒や水素を分離・回収可能な装置を開発し、ロイコキニザリンの合成プロセスと、ロイコキニザリンから機能性化学品であるアントラキノン化合物を合成するプロセスを連結することで、安価な原料からアントラキノン化合物を連続生産することに成功しました。

# 高性能な触媒と連続フロー合成装置の開発



産総研は、顔料染料、医薬品、エネルギー材料など、さまざまな機能性化学品合成において鍵となるロイコキニザリンを、環境負荷の低い水素を用いて合成することを目標に研究を進めてきました。そのために、高性能な固体触媒と、固体触媒を用いた気体と液体の原料を直接反応させる連続フロー反応器の開発、そして溶媒や水素を自動的に分離・回収可能な連続分離・回収装置の開発を並行して行いました。

開発した触媒は、白金とニッケルからなる二元金属ナノ粒子構造を持ち、ロイコキニザリン合成において高い活性と選択性を発揮します。複数の金属種から構成される多元金属ナノ粒子では、異種の金属種が電子的に影響を及ぼし合うことで、ナノ粒子触媒表面の活性が変化するリガンド効果と、異なる金属種がそれぞれ異なる基質を活性化して特異な触媒効果を発揮するアンサンブル効果が知られています。

産総研が開発した触媒では、白金は主に0価、ニッケルは酸化物の状態で、触媒担体中の近接場に存在していることがわかりました。これらの異なる酸化状態にある二種類の金属種が電子的に影響を及ぼし合い、協奏的に作用することで、高い活性と選択性を引き出したと考えられます。

# 連続生産フロープロセスによるアントラキノン化合物の合成



ロイコキニザリンは、さまざまな試薬と反応させることで、顔料染料、医薬品、エネルギー材料など多様な機能性化学品の原料となるアントラキノン化合物へ変換することができます。そこで、産総研は、ロイコキニザリンの連続生産プロセスと、ロイコキニザリンのアントラキノン化合物への変換反応を連結することで、多段階反応を実現する連続生産フロープロセスの開発を目指しました。

前段のロイコキニザリンの連続生産フロープロセスでは、原料の低溶解性ゆえ、低濃度条件が必要でしたが、後段のロイコキニザリンをアントラキノン化合物へ変換するプロセスは、二分子反応であるため高濃度、高温条件が必要でした。そこで、低沸点溶媒中で合成した低濃度のロイコキニザリン溶液から低沸点溶媒を留去して、高沸点溶媒による高濃度溶液に連続的に置換可能な、連続分離・回収モジュールを新たに開発しました。

この連続分離・回収モジュールは、ロイコキニザリンの連続生産フロープロセスとアントラキノン化合物への変換プロセスを連結することができ、機能性化学品であるアントラキノン化合物を最大90%を超える高収率で合成可能であることを実証しました。さらに、このモジュールは、ほぼ純粋な低沸点溶媒を回収可能で、前段のロイコキニザリンの連続生産フロープロセスにリサイクルできます。

# 今後の展望



産総研は、今後、開発した多段階連続生産フロープロセスのスケールアップによる、機能性化学品の大量合成の実証や実生産による社会実装を目指します。また、本研究で見いだした触媒中の金属の組み合わせで反応活性や選択性が制御可能な二元金属ナノ粒子触媒構築法を、他の触媒的有機合成反応開発に展開していきます。

この革新的な触媒技術は、持続可能な社会の実現に大きく貢献する可能性を秘めています。


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