皮脂RNA解析でパーキンソン病の新たな診断法開発に期待!
花王株式会社と順天堂大学医学部の共同研究グループは、パーキンソン病患者の皮脂中に含まれるRNA(リボ核酸)を解析した結果、同病に特異的なRNA発現量の変化を発見しました。この発見は、パーキンソン病と類似した症状を持つ多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といった類縁疾患との判別を可能にするだけでなく、非侵襲的で簡便なパーキンソン病診断の新たな検査方法開発に大きく貢献すると期待されています。
背景:パーキンソン病診断の課題
パーキンソン病は、手足の震えやこわばり、動かしづらさといった運動症状に加え、認知機能の低下を引き起こす神経変性疾患です。日本では10万人あたり150人が罹患しており、高齢化社会の進展に伴い患者数は増加傾向にあります。
現在、パーキンソン病の確定診断には専門的な検査が必要で、早期診断が治療効果を高める上で重要視されています。しかし、簡便な検査方法が不足しており、より容易な診断方法の開発が求められていました。
花王と順天堂大学の共同研究:皮脂RNAに着目
花王と順天堂大学は、パーキンソン病患者に脂漏性皮膚炎が高率にみられることに着目し、独自の皮脂RNAモニタリング技術を用いて研究を進めてきました。この技術は、あぶらとりフィルムで採取した顔の皮脂からRNAを抽出し、分析するという画期的な手法です。
2021年には、皮脂RNAにパーキンソン病患者の特徴を示す情報が含まれていることを発見していました。しかし、当時では類縁疾患との判別が課題となっていました。
新たな発見:パーキンソン病特異的なRNA変化
今回の研究では、健常者、パーキンソン病患者、多系統萎縮症患者、進行性核上性麻痺患者の計265人を対象に、皮脂RNAの詳細な比較解析を行いました。その結果、パーキンソン病患者にのみ、ミトコンドリア関連遺伝子のRNA発現量が上昇していることが明らかになりました。
ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生に関与する重要な細胞内小器官であり、パーキンソン病ではミトコンドリアの機能不全が神経細胞死を引き起こすとされています。今回の研究では、特にミトコンドリア複合体Ⅴに関係するRNAの発現上昇が確認され、これがパーキンソン病特異的な変化であると考えられています。
類縁疾患との判別も可能に
さらに、パーキンソン病患者と類縁疾患患者を比較した結果、ミトコンドリア関連遺伝子のRNA変化はパーキンソン病に特異的であることが判明しました。このことから、皮脂RNAを用いることで、パーキンソン病と類縁疾患を区別できる可能性が示唆されています。
今後の展望:新たな検査方法の開発へ
今回の研究成果は、皮脂RNAを用いた非侵襲的で簡便なパーキンソン病診断の補助技術開発への期待を高めるものです。今後は、さらに研究を進めることで、より正確で信頼性の高い検査方法の開発を目指していく予定です。
パーキンソン病の早期診断と治療は、患者のQOL(生活の質)向上に大きく貢献するものです。皮脂RNA解析技術の更なる発展により、患者さんにとってより良い未来が拓かれることを期待しています。