ミリ秒で捉える酵素の反応過程 - SACLA研究の新境地
大阪医科薬科大学や大阪大学など複数の大学および研究所で構成されたチームが、X線自由電子レーザー(XFEL)を用いた研究により、働く酵素の反応過程をミリ秒単位で可視化することに成功しました。この成果は、新しい時分割タンパク質構造決定法として生命科学分野に革命をもたらすと期待されています。
研究成果の概要
この研究では、特に銅含有アミン酸化酵素に焦点を当て、その触媒過程を連続的に観察する手法を採用しました。研究チームはSACLAが開発した二液混合装置を駆使して、酵素と基質が反応を始めてから数十から数百ミリ秒後の構造を解析しました。この技術により、反応中のさまざまな中間体の構造を明らかにし、酵素の構造が反応にどのように寄与するのかを探ることができました。
SAXLAの特徴
SACLA(SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser)は、日本が誇るXFEL施設であり、2011年に完成しました。従来の放射光源に比べ、約10億倍もの高輝度を持つX線を生成することが可能です。この特性のおかげで、分子の微細な動きを高い時間・空間分解能で観察でき、酵素の活動における原子レベルの変化を捉えることが可能となります。
研究の方法
銅含有アミン酸化酵素の分析には、まず微生物由来の酵素から数μmサイズの微結晶を製造し、それをSACLAの装置を用いて二液混合法で照射しました。研究チームは合計9つのデータセットを取得し、遅延時間に応じて補酵素TPQとその周囲の電子密度を変化させ、各中間体の構造変化を詳細に評価しました。
構造変化の発見
従来の見解では触媒過程における構造変化は活性中心のみで生じると考えられていましたが、研究により基質結合によってドメイン全体での構造変化が観察され、活性中心での変化と連動していることが確認されました。これにより、酵素が反応を進める際の全体的なメカニズムがより明確となりました。
未来への展望
本研究の成果は、酵素科学における新しい機能性酵素の設計に貢献する可能性があります。酵素の反応過程を理解することは、新たな医薬品の開発や産業用途において非常に重要です。研究者たちは、この技術を用いた酵素反応の視覚化が、さらなる革新をもたらすことを期待しています。
研究者の見解
研究チームのメンバーは、高品質の微結晶を得ることが非常に難しい中、得られた成果が驚くべきものであったと述べています。この二液混合法を活用した研究は、将来的に多くの酵素反応の解析に応用できる可能性を開くものです。
まとめ
この研究は、酵素の運動を原子レベルで解明し、活動のメカニズムを明らかにすることで、新たな科学的知見を提供しています。今後、多くの分野での応用が期待される非常に重要な進展であり、生命科学の未来に大きな期待が寄せられます。