神経細胞の活動評価に革命をもたらす新技術
国立研究開発法人 産業技術総合研究所の研究チームは、神経細胞の活動を評価するための新たな技術を開発しました。この手法は、ラマン分光法という分子解析技術と機械学習の融合によって実現されており、神経細胞や神経細胞の集団の活動を迅速かつ正確に評価することが可能です。
従来の技術の課題
従来の神経活動を評価するための技術は、蛍光プローブと呼ばれる指標物質の存在が欠かせませんでした。この手法では、プローブを使用するため、細胞や組織への損傷のリスクや計測にかかるコスト、時間の問題がありました。これに対処するため、本研究グループは非侵襲的でプローブ不要のシステムを開発しました。これにより、神経細胞の活動に伴う分子変化を精密に計測できるようになりました。
新技術の概要
この技術は、ラマン分光法を用いており、対象物質にレーザー光を当て、その散乱光から分子情報を引き出します。神経細胞から取得したラマンスペクトルには、核酸、たんぱく質、脂質など、多様な細胞内分子の情報が含まれています。これまでの研究から、私たちはこの技術を利用して、神経細胞が集団で活動する神経核に関しても精確な評価を実現しています。
神経細胞の評価実験
研修チームは、ヒトのiPS細胞から作製した神経細胞を用いて、ラマンスペクトルを取得しました。この結果、グルタミン酸溶液に反応した神経細胞と、対照液で反応した細胞を99%の精度で識別しました。この成功は、PRESS(ペイント式ラマン分光システム)の有効性を示しています。
さらに、集団活動を持つ神経核の評価も行いました。自律神経細胞が集まって形成する神経凝集体に対しても、最新の測定手法を駆使し、ニコチン誘発による活動変化を98%の精度で評価可能であることが確認されました。
医療研究への貢献
この技術により、再生医療や創薬の分野においても大きな貢献が期待されます。特に、細胞製造過程での品質管理、新薬開発や毒性評価の迅速化に寄与します。
また、動物実験の削減にも役立つ可能性があることから、今後の研究や商業アプリケーションの展開にも大きな期待が寄せられています。
今後の展望
今後は、製品化に向けた自動化の進展や、ロボティクス、画像解析技術の導入を進めていく予定です。これにより、高精度かつ低コストな細胞活動の評価が可能となり、新薬開発や治療法の向上に繋がることが見込まれます。具体的には、胚の評価やがん細胞など広範な細胞の特性を把握する技術として発展することが望まれています。
論文情報
この研究成果は、2024年に発表された論文「Label-Free Assessment of Neuronal Activity Using Raman Micro-Spectroscopy」に詳細が記されています。この技術は、神経科学の進展だけでなく、より効率的で倫理的な研究環境の構築にも貢献するでしょう。