原子力研究開発の未来を担う!新試験研究炉建設に向けた最新状況と課題

原子力研究開発の未来を担う!新試験研究炉建設に向けた最新状況と課題



文部科学省の原子力科学技術委員会原子力研究開発・基盤・人材作業部会(第22回)が開催され、新試験研究炉の建設に向けた議論が活発に行われました。本稿では、同会議で明らかになった最新情報と今後の課題について詳しく解説します。

新試験研究炉:日本の原子力研究開発の中核を担う



新試験研究炉は、老朽化が進む既存の試験研究炉の代替として、日本の原子力研究開発を将来にわたって支える重要な施設です。特に、高度な原子力人材育成、中性子利用需要への対応、研究基盤の維持・整備という観点から、その重要性はますます高まっています。

JAEA(日本原子力研究開発機構)は、新試験研究炉を10 MW級の中性子ビーム炉として、これまで詳細設計を進めてきました。炉心配置や実験装置群の検討も進められており、現在、敦賀市の「もんじゅ」跡地に設置する候補地を3か所絞り込み、年内に建設予定地を決定する方針です。

建設に向けたスケジュールと資金計画



新試験研究炉の設置までに要する期間は、過去の実績を参考に約8年と見込まれています。JAEAは、詳細設計Ⅰ期間として、原子炉設置許可申請までにおよそ160億円が必要になると試算しています。

建設費用全体については、JRR-3(日本原子力研究開発機構の大強度陽子加速器施設)をベースに、現時点での物価等を加味して算出された概算です。今後、設計の詳細化や安全対策強化、社会情勢の変化などによって費用は変動する可能性もあります。

運用に向けた課題:技術継承と資金確保



新試験研究炉は、建設だけでなく、運転開始後も長期にわたる運用が求められます。そのため、技術継承と安定的な資金確保が大きな課題です。

JAEAは、過去に培ってきた技術を伝承するメンバーを組織し、三菱重工を主契約企業として、安全性を最優先とした設計を進めていく方針です。また、既存の試験研究炉であるJRR-3で培われた技術やサプライチェーンを活用していく計画です。

運転経費については、年間6億円が計上されているものの、実際に運転が始まると、この金額では賄いきれない可能性が高いです。そのため、JAEAの予算構成を見直し、運転費用を確保していくための資金再循環が必要となるでしょう。

デジタル技術の活用:建設と運用を効率化



新試験研究炉の建設では、デジタル技術を活用することで、効率化と安全性向上を図る取り組みが進められています。具体的には、デジタルツインやAIによるヒューマンエラー防止技術などが検討されています。

デジタル技術を活用することで、設計・製作、運転・保守、人材育成など、様々な面で効率化と高度化が期待できます。将来的には、発電炉の建設にもこれらの技術が応用される可能性があります。

地域振興への貢献:経済効果と人材育成



新試験研究炉の建設は、敦賀市や福井県にとって大きな経済効果をもたらすと期待されています。JAEAは、建設段階では多くの雇用創出が見込まれるとしています。

運転開始後も、約100名の職員が必要になると試算されています。さらに、新試験研究炉を中核とした複合拠点の整備や産業誘致によって、更なる経済波及効果が期待されます。

人材育成面では、新試験研究炉を中核とした、原子力研究開発・人材育成拠点の形成を目指しています。地域の中学校や高校と連携したSTEM教育や、大学での専門人材育成、産業界との連携による人材交流などを推進することで、原子力分野における人材育成を強化していく計画です。

研究・人材育成基盤の強化:課題と見直し



文部科学省は、原子力科学技術・イノベーションの推進と、原子力に関する人材育成基盤の強化を図るため、原子力システム研究開発事業(原シス事業)と国際原子力人材育成イニシアティブ事業の見直しを進めています。

原シス事業は、大学等の研究者を対象とした研究ファンディングです。しかし、現状では、原子力分野の中核的なコミュニティに閉じた課題が多く、新規性や挑戦性の高い研究テーマが不足しているという指摘があります。また、研究者の層の拡大や他の分野との連携不足も課題として挙げられています。

これらの課題を解決するため、文部科学省は、新規領域開拓型という新しい枠組みを設けることを提案しています。これは、従来の枠組みにとらわれず、原子力分野と他の分野との連携を積極的に推進し、革新的な研究を支援することを目的としています。

国際原子力人材育成イニシアティブ事業は、ANEC(先進的原子力教育コンソーシアム)への支援を通じて、原子力人材育成を進めています。しかし、大学間の連携不足、企業の参画不足、他のネットワークとの連携不足などが課題として指摘されています。

これらの課題を解決するため、文部科学省は、ANECの活動範囲を拡大し、原子力専攻以外の学生や、大学、企業からの参画を促進することを提案しています。また、他の省庁やネットワークとの連携を強化することで、より効果的な人材育成を目指していく計画です。

新しい原子力研究開発・人材育成の未来



新試験研究炉の建設と、原子力研究・人材育成基盤の強化は、日本の原子力研究開発の未来にとって重要な課題です。

今回の議論を通して、今後の原子力研究開発は、従来の電力利用にとどまらず、医療、産業、科学技術など、より幅広い分野への貢献を目指していくことが重要であるという認識が共有されました。

関係機関は、連携・協力し、多様な人材育成、学際領域の研究推進、デジタル技術の活用などに取り組むことで、新たな原子力研究開発の未来を切り開いていくことが期待されます。

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