新しい結晶育成法の開発
最近、株式会社ノベルクリスタルテクノロジーが発表した結晶育成法「Drop-fed Growth(DG)法」は、貴金属製るつぼを使用せずにβ-Ga2O3結晶を高効率で育成することに成功しました。この新しい技術によって、これまで高価なイリジウムを大量に使用せざるを得なかった従来の方法に比べ、製造コストを10分の1にまで削減することが可能となります。
背景とその重要性
β-Ga2O3は、低損失のパワーデバイスに最適な材料とされています。その特性により、家庭電化製品や産業機器、電気自動車のパワーエレクトロニクス機器に幅広く使用されることが期待されています。国内外では、β-Ga2O3に関連するプロジェクトや研究が活発に行われており、高性能デバイスの開発が急務とされています。
EFG法からDG法への移行
株式会社ノベルクリスタルテクノロジーは、これまで「Edge defined film-fed growth(EFG)法」 を用いてβ-Ga2O3基板を製造してきましたが、高温に耐えるるつぼとしてイリジウムを使用しなければならない点が、コスト増の要因となっていました。この課題を解決するために、同社はイリジウム製のるつぼを使わず、独自の育成法を開発しました。
DG法の革新ポイント
DG法の最大の特徴は、原料を液滴で供給することにより、ルツボなしでの結晶育成を実現した点です。これにより、従来の方法では困難だった大口径の結晶製造も可能となっています。具体的には、誘導加熱技術を採用し、温度分布を適切に制御することで、結晶表面を均一に加熱することができます。この技術により、結晶の成長や品質も向上しています。
具体的な成果
DG法を用いて育成された95mm径のβ-Ga2O3結晶は、A部分が種結晶、B部分が育成した部分です。結晶は円筒形で、成長長は50mm。ナ型結晶として不純物を添加することで、明確な青色が示されます。この品質向上に寄与するのが、液滴供給と高温制御の巧妙な組み合わせです。
特許の取得状況
DG法は、特許を国内外で出願しており、権利化を進めています。日本の特許第7633637号や、米国、欧州、中国における特許も申請中です。これにより、技術が法律的に保護され、市場での競争力を高めることが期待されます。
今後の展望
ノベルクリスタルテクノロジーは、DG法に基づきさらに大口径の結晶育成と品質の向上に取り組む予定です。2029年からは150mm(6インチ)、2035年からは200mm(8インチ)基板の出荷を見込んでおり、パワーデバイス市場への本格的な参入が期待されます。
今後の技術進展が、どのようにパワーデバイス業界に影響を与えるのか、注目が集まります。私たちの生活を支える技術の革新が、さらなる進化を遂げる日も近いかもしれません。これからの動向をぜひ注視していきましょう。