高齢心不全におけるGLISモデルの有用性
順天堂大学大学院医学研究科の研究チームが実施した最新の研究により、高齢患者の心不全におけるサルコペニアの評価方法として「GLISモデル」が注目されています。このモデルは、国際的なサルコペニア診断基準として提唱され、従来の診断基準と比較してその有用性を示す結果が得られました。
研究の背景と目的
高齢化が進む現代において、心不全患者の数が増加しています。心不全は死亡リスクが高く、特に「サルコペニア」と呼ばれる筋肉量や筋力の低下は、身体機能を損なう重要な要因です。これまでのアジアにおける診断基準では、AWGS2019基準が利用されてきましたが、欧米では異なる基準が使われており、診断方法に一貫性が欠けていました。そこで提案されたGLISモデルは、筋肉量と筋力を重視しつつ、身体パフォーマンスを結果として扱う新たなアプローチです。
本研究では、高齢心不全患者に焦点を当て、GLISモデルによるサルコペニア診断が身体パフォーマンスや予後にどのように関連するかを明確にすることを目的としました。
研究の内容と手法
2016年から2018年にかけて15施設で行われた多施設共同研究「FRAGILE-HF」のデータを用いて、本研究は65歳以上の急性非代償性心不全患者891名を対象としました。この患者群において、GLISモデルを適用し、サルコペニアの有無が歩行速度や椅子立ち上がり、6分間歩行距離などの身体パフォーマンスに与える影響を検討しました。
解析の結果、GLISモデルで「サルコペニア疑い」または「サルコペニア」と診断された患者は、身体パフォーマンスの低下を示し、これは統計的にも有意でした。また、2年間の追跡調査では、サルコペニアの進行に伴い死亡率が徐々に上昇することが確認されました。
研究成果の意義
GLISモデルによるサルコペニア診断は、身体パフォーマンスの低下を的確に反映しており、独立した予後不良因子としても確認されました。さらに、従来の予後予測モデルにGLISモデルを加えることで、予測精度が向上することも示されました。これにより、GLISモデルが高齢心不全患者の臨床現場での利用が現実的になる可能性が高まっています。
今後の展望
この研究成果を踏まえ、今後はGLISモデルが国際的なサルコペニア診断基準に組み込まれることが期待されます。また、診断に必要な身体パフォーマンスの測定が簡易であるため、外来や入院時の診療にも適応しやすいという特長があります。これにより、栄養療法や運動療法といった介入を早期に実施することで、高齢患者の生活の質向上や長期予後改善へとつながることが期待されています。
結論
GLISモデルは高齢心不全患者におけるサルコペニアの診断とその後の予後における重要な指標となり得ることが明らかになりました。研究チームは今後もこのモデルの有用性を探求し、高齢者医療に貢献していくことを目指しています。
参考文献
本研究は、European Journal of Preventive Cardiologyで2025年10月4日に発表される予定です。また、GLISに関する今後の研究動向にも注目が集まります。