ウグイスの谷渡り鳴きに潜む新たな真実
国立科学博物館による最新の研究で、ウグイス(Japanese bush warbler)の代表的な鳴き声「谷渡り鳴き」が、従来の認識とは異なる目的を持つ可能性が示唆されています。これまで「谷渡り鳴き」は、捕食者が近づいた際の警報と考えられてきましたが、新たな調査により雌へのアピールであるとの興味深い仮説が浮上したのです。
研究の背景
ウグイスの雄が発する「ピルルルルルケッキョケッキョ……」という独特の鳴き声は、多くの人々に親しまれており、谷を渡る際の音声であると誤解されてきました。これまでこの鳴き声は集団内の危険を知らせる警報として捉えられていました。しかし、従来の見解には科学的根拠が不足していました。国立科学博物館の濱尾章二氏は、30年間にわたるウグイスの観察を通じて、その鳴き声が雌の存在に関連している可能性を指摘したのです。
研究方法と発見
調査は新潟県の妙高市と上越市で行われ、4月から8月にかけて約20日ごとに行われました。特に興味深いのは、雄が雌に会う前はほとんど谷渡り鳴きをしないのに対し、雌が現れるとその回数が急増した点です。観察を通じ、雌がいた場所や時間に雄が谷渡り鳴きをする傾向が強まることがわかりました。実際、雌がいる間、72%の雄が頻繁に谷渡り鳴きを行っていたことが確認されています。
さらに、谷渡り鳴きの発生数は、雌が実際にその周辺で観察された地点と高い相関関係があり、雄は雌がいる場所で特に活発に鳴くことが明らかになっています。このことは、谷渡り鳴きが単に警報として機能しているのではなく、雄が次世代のパートナーを引き寄せるためのアピール行動であることを示唆しています。
過去の見解との乖離
この新たな見解は、従来の「警報説」に矛盾をもたらします。捕食者が近くにいるにも関わらず、雄が谷渡り鳴きを繰り返す行動は、危険を知らせるためのものとは考えにくいのです。また、観察された雌たちは、雄の近くにいる際に逃げたりすることがほとんどなく、むしろ求愛行動を取る姿が見られました。これにより、谷渡り鳴きの本質が雄の存在アピールであることがより強く支持される結果となりました。
今後の展望
ウグイスの谷渡り鳴きが警報ではなく、雌へのアピールである可能性が示されたこの研究は、今後の生態学的研究に新たな視点を提供します。捕食者に対するアピールと恋愛行動の関連について、さらに深堀りする必要があります。特に、雄がどのようにしてその鳴き声のパフォーマンスに影響を与え、雌を引き寄せるかを明らかにすることが期待されています。これにより、ウグイスの繁殖行動に対する理解が一層深まることでしょう。
今後の研究にも目が離せません。ウグイスの独自な行動が、どのように進化し、最適化されているのか、さらなるデータから探求を続けることが求められます。