革新的な低誘電材料の開発
早稲田大学の小柳津研一教授と渡辺清瑚次席研究員を中心とした研究チームは、株式会社ダイセルと連携し、世界最高水準の低誘電特性を持つ新しい有機材料を開発しました。この材料は、誘電正接が0.001未満という極めて低い数値を示し、今後の6G通信システムに向けた重要な要素技術と期待されています。
開発の背景
近年、IoTやAIの進展により、高速かつ大量のデータを伝送する必要性が増加しています。特に6G通信は2030年頃の実装が見込まれ、30-300GHzの高周波帯での通信が求められています。しかし、従来の低誘電材料は、周波数が上がるにつれてエネルギー損失が増加するという課題を抱えていました。これまで、PPOやポリイミドなどの低誘電材料が開発されてきましたが、両立が難しかった誘電率と誘電正接を兼ね備えた材料は見つかっていませんでした。
新しい分子設計
研究グループは、ポリ(フェニレンスルフィド)誘導体に着目し、電気信号への応答性を極限まで抑える分子設計を採用しました。具体的には、極性を持たないスルフィド結合と、分子運動性の低いベンゼン環からなる構造を取り入れることで、誘電特性を大幅に改善しました。この結果、PMPSと呼ばれる材料で誘電正接0.001未満を実現し、170GHzという高周波帯でもその特性を維持できることが確認されました。
社会的インパクト
この新材料が商業化され、通信技術に導入されれば、今まで以上に大量かつ高品質なデータの高速伝送が可能になります。これにより、データ処理速度の飛躍的向上やIoTの普及、さらにはウェアラブルデバイスの高性能化へとつながるでしょう。通信業界における競争が激化している中で、この成果は新しい設計指針として注目され、さらなる低誘電材料の開発を促進する可能性があります。
研究者のコメント
小柳津教授は「この成果は情報社会を支える革新的技術への第一歩です。極めて低い誘電正接を示すことができたことは、今後の研究に大きな意味を持つ」と語ります。また、渡辺研究員は「LECT研究の延長として、屈折率との関係性も探求していきたい」と展望を述べていました。
今後の展開
今後の研究では、PPS誘導体の構造をさらに改良した新材を開発し、他の高分子素材との組み合わせも模索していく予定です。これにより、低誘電特性の限界を探り、ますます優れた材料の創出を目指します。報告された研究成果は、2025年8月16日にNature系列誌「Communications Materials」にて発表されています。
最後に
情報通信の重要性が増す中で、今回の研究は未来の通信技術に向けた大きなブレイクスルーとなるでしょう。次世代通信インフラの基盤を支える低誘電材料の進化は、まさに私たちの生活を一変させる可能性を秘めています。