AI技術が企業の会計不正を抑止する新しい監査の形
近年、日本では企業の会計不正が増加しています。特に、日本公認会計士協会の最新レポートによれば、2025年3月期に会計不正を報告した上場企業の数は56社に達し、過去5年でその数は倍増しました。その理由の一つには、監査法人が適正意見を出しているにもかかわらず、不正が見逃されている事例が多発していることがあります。このような状況を受けて、従来の監査手法の限界が浮き彫りになっています。
公認会計士であり、エンジニアとしても活躍するジュリオ株式会社の代表取締役、姥貝賢次は「不正を検知するだけでは不十分で、不正を実行させない仕組みが必要だ」と説いています。従来の監査手法は、重要な取引を選択して確認する「試査」に基づいていますが、姥貝は全体を精査するAI技術を用いることで、不正行為を抑止する新しいアプローチを提案しています。これにより、不正を事後的に発見するのではなく、実行そのもののハードルを高めることが可能になるのです。
技術基盤の開発と特許の取得
この考えを実現するため、ジュリオ株式会社は新たな技術基盤を開発し、すでに3件の特許出願を完了しました。また、大手企業向けに内部監査や投融資部門での活用検証も進行中で、海外を含む複数拠点での監査やモニタリング業務においてもその効果が実証されています。担当者からは初期段階ながら確かな手応えが寄せられており、2025年9月に出願されたこれらの技術は、大規模言語モデルと独自のアルゴリズムを活用し、企業不正を多面的に検知する能力を備えています。
監査と承認プロセスの革新
従来の監査は、不正が実行された後の事後的な対応が中心でした。そのため、監査担当者は限られた時間とリソースの中で重要な取引を選ぶ必要があり、才能ある不正はこの選択から見逃される可能性があります。しかし、ジュリオの技術は、稟議書、契約書、経費精算書などのデータを分析し、人間が見落としがちな異常パターンを指摘します。これにより、監査担当者はAIが示すリスクの高い領域に集中することができ、より効率的に質の高い監査を行えます。
また、承認プロセスにおいても役立ちます。稟議が承認される前に、書類の不備や矛盾を指摘することで、不適切な取引を未然に防ぐのです。重要なのは、AIが人間の判断を代替するのではなく、より良い判断を助けることにあります。
不正を「起こさせない」抑止力
なぜ「抑止力」が重要なのか、それは発見の遅れが企業にとって深刻なダメージをもたらすからです。資金の流出や信頼の喪失、株価の下落は、事後的な発見では取り返しがつきません。ジュリオの技術は、不正を企てる人に「バレる可能性が高い」「完璧に偽装するのは不可能」と感じさせることで、未然に防ぎます。システムが存在するだけで心理的な圧力となり、不正行為を思いとどまらせるのです。
この「抑止力」は、量的なプレッシャーと質的なプレッシャーを二階建ての構造で実現します。AIが膨大なデータを全量監視することによって不正を防ぎ、さらに説明文や人間関係などの定性情報を分析することで、より強固な対策を講じるのです。
企業のニーズと未来への展望
ジュリオの技術は、内部監査や金融機関での検証が進んでおり、特に海外市場における課題の克服にも寄与すると期待されています。M&Aや事業の多角化、急成長企業におけるガバナンス強化のニーズも高まる中、あらゆる業種で不正リスクが存在します。AI技術を活用した監査の高度化は、企業の持続可能な成長に不可欠な要素となるでしょう。
経営の現場で直面した経験から、姥貝賢次は「不正を発見することよりも、未然に防ぐことの価値が高い」と訴えています。ジュリオ株式会社は、「技術で信頼を創る」というミッションの下、企業社会における不正行為の撲滅を目指して邁進しています。