水と土から生態系の強靭性を評価
微生物は、有害物質の無毒化や植物への栄養供給、カーボンサイクルの維持など、地球の生態系において欠かせない役割を果たしています。特に細菌は、植物を除くと最も大きな生物量を持ち、動物を含む全生物量の約30倍のカーボンを蓄えています。しかし、土地改変や環境の変化により、細菌の絶滅やその集団の単純化が進行していることが懸念されています。
このような問題に対処するため、龍谷大学の研究チームは、環境DNA分析と生態系シミュレーションを統合した新しい評価手法を開発しました。本手法は、細菌群集の特性を解析することで、生態系がどれだけ壊れにくいかを定量的に診断できるものです。具体的には、環境DNAを用いて水や土から細菌の情報を抽出し、それを基に生態系の機能を推定します。
生態系評価の新たな方法
従来、魚や鳥、昆虫などの生物に対する生物多様性評価は進展していましたが、微生物が担う生態系の役割については推定が難しいという課題がありました。しかし、細菌に関する遺伝子データが豊富に集まっている現状を活かし、環境DNAを介して細菌の群集を明らかにすることで、それらがどのような機能を果たしているかも推測可能となりました。
本研究は、生態系の壊れにくさ、つまり「生態系レジリエンス」を新たな視点で捉えました。この視点から、生態系の機能を数値化することで、開発や保全の意思決定に役立つデータを提供することを目指しています。
生態系シミュレーションモデルの開発
この手法では、環境DNAや全ゲノムデータを用いて、細菌群集が持つ生態系機能の定量化を行います。また、生物多様性の喪失が生態系に与える影響をシミュレーションモデルで予測し、それを基に生態系の壊れにくさを評価します。このプロセスを通じて、壊れにくい生態系とそうでない生態系を比較することができます。たとえば、琵琶湖周辺の環境で適用した結果、琵琶湖の生態系が最も脆弱であることが判明しました。
研究の背景と今後の発展
本研究は2014年に提案されたアイデアを基に発展してきたもので、国立台湾大学の研究者たちとの共同研究の成果です。2023年には、実用的な評価手法として進化し、環境保全や開発時の評価にすぐに活用できる技術として注目されています。
今回の手法は、一杯の水や一攫みの土から簡単にサンプルを得て、細菌叢を特定できるため、広範囲な環境に適用しやすいメリットがあります。この技術は、長期にわたる生態系のモニタリングや保全地域の選定、土地開発時の影響評価において重要な役割を果たすと期待されています。特に、農地や都市などさまざまな環境に対応できるため、生物多様性の保護活動にも役立つことでしょう。
まとめ
生態系の強靭性を評価する新しい技術の登場は、環境保全や持続可能な開発の観点から非常に意義深いものです。今後、この手法が広まり、多様な環境での生態系保護に寄与することが期待されます。
参考文献
- - Wan-Hsuan Chengらの論文「Advancing Marker-Gene-Based Methods for Prokaryote-Mediated Multifunctional Redundancy」
- - 環境DNA技術の意義と影響についての文献