東京薬科大学・生命科学部・感染制御学研究室の新崎恒平教授を中心とする研究チームが、岐阜大学との共同研究において、病原細菌であるレジオネラが宿主であるマクロファージの分解機構を回避するメカニズムを明らかにしました。
レジオネラは、感染した宿主細胞内で急速に増殖し、重篤な肺炎を引き起こすことが知られています。特に温泉や公衆浴場で見られる集団感染は、レジオネラがアメーバを宿主として利用し、感染源となる水環境に広がるため、注目されています。
研究者たちは、レジオネラが宿主細胞に侵入した際、レジオネラ含有液胞(LCV)と呼ばれる膜構造にRab5というタンパク質を集め、そのRab5をユビキチン化することによってLCVから排除していることを発見しました。この過程にはレジオネラの病原因子であるLpg2525が欠かせないことがわかりました。
具体的には、Lpg2525がRab5にユビキチンを結合させることで、Rab5は不活性化されLCVから排除されてしまいます。この結果、レジオネラはマクロファージの分解機構を回避し、細胞内での生存を可能にしているのです。
さらに、研究チームはLpg2525によりユビキチン化されたRab5と、RabGAP-5と呼ばれる不活性化因子との結合が強まることを確認しました。この相互作用の強化がRab5の不活化を促進し、結果的にRab5がLCVから排除されるというメカニズムを明らかにしました。
研究者たちは、Rab5の134番目のリジン残基がユビキチン化の対象であることを特定し、このリジンを別のアミノ酸に置き換えたRab5はLCVからの排除がなく、レジオネラの増殖が抑えられることを示しました。この発見は、レジオネラ感染の新たな治療法の開発につながる可能性を秘めています。
出典として、今回の研究成果は「Journal of Cell Biology」に掲載されており、細菌感染症に対する新たな治療法の確立に向けた方向性を示しています。
今後の展望として、研究チームはレジオネラが宿主分解機構を回避するメカニズムを阻害できる薬剤の探索を進める予定です。これは、抗生物質耐性を持つ病原菌が増加している現代において、抗生物質に頼らない新たな治療法を見出す手助けとなるでしょう。
レジオネラに関する知見が深まることで、今後の病原体感染に対するアプローチが変わり、感染症治療の新たな道が開けることが期待されています。また、レジオネラは実際には多くの病原エフェクターを持っており、今後の研究によってその機能や役割が解明されることを願っています。