微小電気刺激による手の選択誘導:脳卒中リハビリへの新たな光
早稲田大学の研究グループが、手首への微小電気刺激によって、その後の手の選択を誘導することに成功しました。この画期的な発見は、脳卒中などの片麻痺患者のリハビリテーションに新たな道を拓く可能性を秘めています。
研究内容:無意識の選択を操作する
私たちの日常生活では、物をつかむ際、どちらの手を使うか無意識に選択しています。この選択プロセスに、極めて短い電気刺激が影響を与えることを、研究グループは明らかにしました。85ミリ秒という極めて短い時間、片方の手首に電気刺激を与えると、刺激を与えた側の手を使う確率が有意に高まるのです。この効果は、対象物を認識する前の段階で、脳の活動に影響を与えていると考えられます。
実験では、パソコン画面上のターゲットに手を伸ばす課題を用いました。ターゲット提示直前に手首への電気刺激を行うことで、刺激側の手を選択する範囲が広がり、反応時間も短縮されることが確認されました。これは、手の選択という意思決定プロセスを促進する効果を示唆しています。
脳卒中リハビリへの応用:麻痺した手の使用促進
この研究成果は、脳卒中リハビリテーションに大きな可能性をもたらします。脳卒中患者は、麻痺した手を使わない傾向があり、それが回復を妨げる要因となります。従来のリハビリでは、患者の意識的な努力に頼る部分が大きかったため、継続が難しいという課題がありました。
しかし、今回の研究で開発された手法は、無意識レベルで麻痺した手の使用を促すことができます。電気刺激によって、脳が自然に麻痺した手を選ぶように誘導することで、リハビリ効果の向上や、麻痺した手の機能維持に貢献できる可能性があります。
研究の意義:脳神経機序の解明への貢献
本研究は、日常生活における意思決定、特に無意識に行われる選択メカニズムの解明に大きく貢献します。脳波計やfMRIなどの計測手法を用いて、電気刺激が脳活動に及ぼす影響をさらに詳細に解明していくことで、脳神経科学分野における新たな知見が得られると期待されます。
今後の展開:臨床応用に向けた検証
研究グループは、今後、脳卒中患者を対象とした臨床研究を行い、この手法の有効性を検証していく予定です。電気刺激のパラメーター最適化や、安全性に関する検討も必要となりますが、将来的には、脳卒中リハビリテーションにおける新たな標準治療法となる可能性を秘めた画期的な研究成果と言えるでしょう。麻痺した手を積極的に使うことで、患者のQOL(生活の質)向上にも繋がる可能性があり、大きな期待が寄せられています。
論文情報
雑誌名:Scientific Reports
論文名:Somatosensory stimulation on the wrist enhances the subsequent hand-choice by biasing toward the stimulated hand
執筆者:平山健人(早稲田大学、University of Southern California)、高橋徹(早稲田大学、Laureate Institute for Brain Research)、Xiang Yan(早稲田大学)、古賀敬之(早稲田大学)、大須理英子(早稲田大学)
掲載日時:2024年9月30日