ナウマンゾウ化石から読み解く古代の環境
2023年に再発見されたナウマンゾウの「浜町標本」は、東京都営地下鉄新宿線の浜町駅近くで発見された化石です。この化石は十数万年前、すなわち人類が日本列島に存在しなかった時代に生きたナウマンゾウのもので、その発見は1976年に遡ります。当時、地下鉄工事の際に発見されたこの化石は、野尻湖友の会東京支部の会員たちによって発掘され、数多くの研究が行われてきました。
発見から現在へ
当初の発掘作業には高橋啓一さんが関わっており、彼は大学入学初年の学生でした。クリーニング作業に参加した間島信男さんも、その重要な瞬間に立ち会い、化石から取り除かれた堆積物を保存することに注力しました。彼が持ち帰った約1kgの堆積物は、47年後の2023年、地学教室の奥から再発見されることになります。間島さんは堆積物の分析を高橋さんに依頼し、この大切な資料がいかに古代の環境を理解する手掛かりとなるかを示すことになりました。
珪藻と花粉分析の結果
今回の研究では、堆積物に含まれる珪藻と花粉の分析が行われました。珪藻分析の結果からは、浜町標本が満潮時にのみ海水に浸るような低塩性湿地環境で生息していたことが示唆されました。花粉分析では、周囲の植生が多様でブナを始めとする落葉広葉樹林が存在し、サワグルミやニレ属、ハンノキ属なども確認されました。
特に、珪藻の種類には淡水性および海水性のものが含まれ、河川から運ばれたデータが豊富であることがわかりました。また、特定の環境に特有のTryblionella granulataが多く見られ、塩生湿地の特徴を如実に示しています。植物の花粉からは、草本植物が豊富にあったことや、湿地や川沿いの環境だったことも示されています。
研究の意義と今後
このように、堆積物から復元された生息環境の分析結果は、ナウマンゾウが最期を迎えた時の地球の姿を鮮やかに描き出しています。本研究の成果は琵琶湖博物館によって論文としてまとめられ、ジャーナルに投稿され、2025年には出版される予定です。これは、ゾウ化石と珪藻、花粉という異なる分野の研究者が連携して行った研究で、琵琶湖博物館の強みが発揮された成果です。
高橋さんたちの努力によって掘り起こされたこの堆積物は、捨てられる運命だったかもしれません。間島少年の保存活動が、未来の研究にこんなにも大きな影響を与えるとは、まさに大ファインプレーと言えるでしょう。今後もこのような重要な研究が進展し、私たちの地球の歴史を解き明かす手掛かりとなることを期待しています。