脳科学者・恩蔵絢子が新たに提唱する感情労働の可能性
2025年10月17日、株式会社河出書房新社から、注目の脳科学者である恩蔵絢子さんの新刊『感情労働の未来――脳はなぜ他者の"見えない心"を推しはかるのか?』が発売されます。本書は、感情労働の理解を深めるだけでなく、現代社会におけるその重要性を問い直す内容となっています。
恩蔵研究者は、アルツハイマー型認知症に関する画期的な見解を示した、前作『脳科学者の母が、認知症になる』から7年を経て、今回の最新作を書き上げました。感情労働とは、主に医療や介護、サービス業において、自身の感情をコントロールしながら、他者に向き合う必要がある仕事を指します。実際に多くの人々が、偽りの笑顔を作ったり、本音を抑え込んだりする中で、ストレスや精神的負担を抱えています。
本書では、感情労働の原点がどこにあるのか、またその社会的意義は何かを探求していきます。1983年にアーリー・ラッセル・ホックシールドが著書『管理される心』で述べたように、感情を管理することが求められる職場では、感情労働とプライベートにおける感情作業は異なる存在として語られています。しかし著者は、これら二つの活動が実際には同じ脳の働きによるものであると主張。感情労働の全体像を新たな枠組みで考察します。
特に著者が注目するのは、SNSが若年層の脳に与える影響です。「いいね」の数を気にするあまり、他者に合わせることに必死になることで、自己の感情すら見失ってしまうという事態が進行しています。このような現代のメディア環境は、感情労働の最前線といえるでしょう。
興味深いのは、著者が提示する問題提起です。知能指数(IQ)が高いチームと、社会的感受性が高いチーム、どちらがより良い成果を出すのかという問いです。著者は、チーム内に社会的感受性が高い人がいる場合、そのチームの成績が最も良いと示唆しています。このことから、感情労働は単なる感情のコントロールではなく、他者を理解し共感する力を育む新たな知性であると考えられています。
さらに著者は、AIと人間の感情の理解の違いについても言及。大規模言語モデルが人間の心を推測できるかという問いを提起し、AI時代における感情の役割を考察していきます。人間としての感情がどのように進化し、またAIとの関係性はどうなるのかを紐解くことが、本書の大きなテーマとなっています。
本書は、単に感情労働を理解するだけでなく、それを通じて人間の可能性を拓く一冊です。これからの時代に必要不可欠な視点を提供する内容で、非常に示唆に富んだ作品と言えるでしょう。新刊『感情労働の未来』をぜひ手に取って、今後の自分自身の考え方や働き方を見直すきっかけにしてみて欲しいと思います。
著者紹介
恩蔵 絢子(おんぞう・あやこ)さんは、1979年に神奈川県で生まれた脳科学者です。専門は自意識と感情に関する研究で、上智大学理工学部を卒業後、東京工業大学大学院で学びました。現在は東京大学大学院で研究を続ける傍ら、いくつかの大学で非常勤講師として教鞭をとっています。著書には、先述の『脳科学者の母が、認知症になる』や、共著に『認知症介護のリアル』などがあります。近年、放送されたNHKスペシャルでも高い評価を得ています。彼女の最新刊は、人工知能時代の必読書として、多くの人にとって新しい知見を提供するものでしょう。