日立冷蔵庫「新鮮スリープ野菜室」開発秘話 - 野菜の鮮度を守る技術革新 -
日立の冷蔵庫は、長年、食品の鮮度保持に力を入れてきました。その中でも、野菜室の鮮度保持技術「新鮮スリープ野菜室」は、2014年の登場以来、多くのユーザーから支持を集めています。
今回は、「新鮮スリープ野菜室」の開発に携わった日立グローバルライフソリューションズ株式会社の國分真子さんに、開発秘話や技術のこだわりについてお話を伺いました。
野菜の鮮度を守る「眠らせる」技術
「新鮮スリープ野菜室」は、野菜の呼吸を抑え、エチレンガスを減らすことで、まるで眠らせているように鮮度を保つ技術です。
「野菜は収穫後も呼吸を続け、栄養成分を消費し、水分を蒸散させていきます。同時に、エチレンガスというホルモンを放出するのですが、このガスは熟成を促進する一方で、老化も促進してしまうのです。」と國分さんは説明します。
「新鮮スリープ野菜室」は、このエチレンガスを分解し、炭酸ガスに変換することで、野菜の呼吸を抑制し、鮮度を長持ちさせる仕組みです。
開発のきっかけは、社会ニーズと技術革新
「新鮮スリープ野菜室」の開発には、社会的な背景と、日立の技術革新が大きく影響しています。
当時、野菜の保存性能に対するニーズが高まっていた一方で、野菜の廃棄率も高くなっていました。日立は、既存の保鮮技術をさらに進化させ、野菜の鮮度保持性能を高める必要性を感じていました。
チルドルーム技術から生まれた発想
開発チームは、冷蔵室にある「チルドルーム」の保鮮技術に着目しました。「チルドルーム」は、減圧することで酸素量を減らし、鮮度を保つ技術です。しかし、減圧しすぎると技術的に難しく、安定した保鮮を実現することが困難でした。そこで、酸素量をコントロールするのではなく、他のガス成分に着目することにしました。
業務用技術からヒントを得て
ヒントになったのは、業務用で用いられている「CA貯蔵(controlled atmosphere storage)」という技術です。「CA貯蔵」は、野菜や果物の保管倉庫などで使われ、炭酸ガス濃度を高め、酸素濃度を低くすることで、野菜や果物の呼吸を抑え、鮮度を保ちながら長期間貯蔵する技術です。
「業務用ではガスボンベで炭酸ガスを供給しますが、家庭用では難しいので、光触媒技術でエチレンガスを分解し、炭酸ガスを生成することで、野菜を眠らせるように保存する『スリープ保存』の技術を開発しました。」と國分さんは語ります。
野菜室への応用 - 構造設計の工夫とプラチナ触媒の採用
「スリープ保存」の技術を野菜室に応用するために、開発チームは、野菜室内の炭酸ガス濃度を高める構造設計に取り組みました。
「密閉度の高い構造にすることで、野菜室内の炭酸ガス濃度を高めることができますが、同時に水分が溜まってしまうという課題もありました。そこで、水分を吸収する『うるおいユニット』を開発し、野菜室内の湿度を適切に保つことに成功しました。」と國分さんは説明します。
また、エチレンガスを分解する触媒には、当初LED光源が必要な光触媒を使用していましたが、後に北海道大学が開発した冷蔵温度でもエチレンガスを分解できるプラチナ触媒を採用しました。このプラチナ触媒は、省エネ性にも優れ、より効果的に野菜の鮮度を保つことができるようになりました。
10年の進化 - 未来への展望
「新鮮スリープ野菜室」は、2014年の発売以来、多くのユーザーから高い評価を受けています。日立は、これからも、お客様の声を反映し、さらに進化した鮮度保持技術を開発していくことで、食生活を豊かにし、食の安全・安心に貢献していきます。