生体神経動作の模倣
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)は、東京大学や九州大学などの共同研究チームと共に、低消費電力で動作するトランジスタの動作実証を成功させました。この新しいトランジスタは、生体の神経組織の特性を模倣し、電力効率の高い情報処理を実現します。
新技術の背景
近年、AI技術の発展に伴い、エッジデバイスにおける情報処理能力が求められています。これには、低消費電力で高効率な処理が不可欠です。生体神経は、遅い入力信号を効率的に処理する能力を持っていますが、この特性を人工素子で再現することが難しいとされていました。今回の研究では、固体中のイオンの動きを操作することで、入力信号を遅い時間で変化させるトランジスタが開発されました。
新しいトランジスタの特徴
開発されたトランジスタは、チタン酸ストロンチウムをチャネルとして利用し、イオンに基づく動作原理を持ちます。従来のシリコンMOSトランジスタとは異なり、約100万倍ゆっくりと動作することが可能です。加えて、このトランジスタは500pWという極小の電力で動作できることが実証されています。これにより、非常に効率的な情報処理が期待されています。
生体神経の能力の模倣
生体神経は、外部からのパルス信号を内部でリーク積分により時間変化させる能力を持っています。これに対し、従来の電子回路では多くの電力を消費し、サイズも大きくなるため実現が困難でした。今回のトランジスタは、外部からの電圧入力によって酸素欠損イオンを制御し、安定したリーク積分動作を実現しています。これにより、少ない電力でも複雑な情報処理が可能となります。
未来への展望
今後は、このトランジスタを用いたニューラルネットワークの構築に向けた研究が進められ、ウェアラブルデバイスなどにも応用される見込みです。また、クラウドを使わない自律的なAIシステムの実現を目指し、さらなる小型化やセキュリティの強化にも寄与することが期待されます。
この画期的な技術は、2024年11月27日には「Advanced Materials」に掲載予定です。私たちの未来のデバイスがこのトランジスタによって、低消費電力で動作することが期待されます。生体神経の特性を人工的に再現することで、全く新しい情報処理技術が開花するかもしれません。エッジデバイスの進化が今後どう広がっていくのか、大いに注目されます。