人の苦味受容体とAIによる構造予測
日本の芝浦工業大学の越阪部奈緒美教授率いる研究チームが、AI技術を利用してヒトの苦味受容体、通称T2Rの構造を予測するという画期的な研究を行いました。この研究では、Googleが開発した最新のAI構造予測モデル「AlphaFold3(AF3)」を用い、25種類のT2Rの三次元構造を解析。実験的に解明されている構造との比較を通じて、その精度を実証しました。
研究の背景と意義
苦味受容体は、私たちが苦味を感じるための重要なセンサーです。この受容体は、口腔内だけでなく、腸などの体内にも存在しています。腸脳軸や食欲の調節、さらには糖代謝にも関わる可能性が示唆されており、健康と密接に関連しています。しかし、現状では25種類の受容体のうち、実験で明らかになっているのはT2R14とT2R46の2種類のみで、他の受容体の構造情報は非常に限られています。
今回の研究成果は、より多くの受容体の構造が AI によって高精度に予測できることを示し、今後の食品や医薬品の開発に向けた新たな視点を提供します。特に、T2Rに関連する生活習慣病—糖尿病や肥満—に対する治療法開発の可能性を示唆しており、非常に注目される点です。
AlphaFold3による高精度予測
越阪部教授らは、AlphaFold3を使ってT2Rの構造を予測し、その結果を実験で確認済みのT2R14とT2R46の構造と比較しました。研究の中で重要視された点は、T2R14とT2R46の実験構造との一致度が従来のモデル、AlphaFold2(AF2)よりも優れているということです。このことは、AF3が受容体の構造予測において大きな進歩を遂げたことを意味しています。
また、研究チームはT2Rを3つのクラスターに分類。これにより、特定の受容体群が共通の機能を持つ可能性があることも示されました。さらに、AF3によって予測された受容体とGタンパク質との複合体構造も高い精度で明らかにされており、今後の研究にとって大変価値のある成果と言えます。
生活習慣病への応用の期待
この研究は、苦味受容体の構造理解を進め、苦味物質との相互作用や腸脳軸のメカニズムの解明を通じて、糖尿病や肥満などの生活習慣病への治療法模索に貢献することを目指しています。今後は、分子動力学シミュレーションや他の実験的手法と組み合わせることで、さらなる知見が得られることが期待されています。これらの成果が実現することで、健康問題の解決に向けた新たなアプローチが生まれるかもしれません。
研究成果に関する詳細
本研究の成果は、国際的な食品科学の学術誌『Current Research in Food Science』に掲載されており、科学研究費補助金(JSPS KAKENHI)の支援も受けています。芝浦工業大学は、理工系大学としての特徴を活かし、国際的な教育と研究の促進に努めています。2027年には創立100周年を迎え、さらなる教育の充実と研究の進展を目指しています。