新たなパワーエレクトロニクスの可能性
近年の技術革新により、無線電力伝送(Wireless Power Transfer: WPT)がますます注目を浴びています。高校生向けのプロジェクトの中で、千葉大学大学院情報学研究院の関屋大雄教授と、東京理科大学工学部電気工学科の朱聞起助教、そして崇城大学情報学部の小西晃央助教を中心とする研究チームが、新しい設計手法を開発しました。これは、負荷の変動に影響されずに安定した出力電圧を保つ「負荷非依存型WPTシステム」の設計を、機械学習(Machine Learning: ML)と数値最適化によって自動で行うというものです。
従来技術の限界を超えて
従来のWPTでは、負荷の変化によって出力電圧が不安定になったり、効率が低下したりする問題がありました。この根本的な課題を解決するために用いられる「負荷非依存(Load-Independent: LI)動作」は、一定の条件下で常に高効率を維持できる技術として期待されています。しかし、このLI動作の設計には高い専門性が必要であり、一般には普及が難しいものでした。
AIの力による設計手法の革新
今回の研究チームは、全数値的設計手法(Fully-Numerical Design Method)を提案しました。この方法では、回路の全体の動きを数値シミュレーションでモデル化し、出力電圧の安定性や電力伝送の効率を正確に評価します。実験結果によれば、クラスEF型WPTシステムは電圧の変動を従来の60%まで抑え、最大86.7%の電力伝送効率を達成しました。これにより、AIによる設計が現実的かつ再現性のあるものになることが期待されています。
高周波WPTの急成長
現在、スマートフォンやロボット、医療機器といったさまざまな分野で無線電力伝送の実用化が進んでいます。この技術は、有線接続を不要にし、特に特殊な環境での電力供給に大きな可能性を秘めています。また、高周波WPTはIoTデバイスや医療用埋込機器、産業用ロボットへの応用が加速しています。
未来に向けての展望
今後の研究では、半導体素子や磁性部品を含めた統合設計フレームワークの構築や、MLの最適化計算の高度化を目指すと共に、他の高周波の電力変換回路への展開も考えています。このような技術革新は、今後3年以内におけるさらなる実用化を推進することでしょう。
用語解説
- - 負荷変動: 電力供給対象が時間によって変化する現象。
- - 機械学習 (Machine Learning): データからパターンを学び、自動的に判断を行う技術。
- - ISMバンド: 産業や医療のために特別に割り当てられた無線通信の頻帯。
この研究成果は、IEEE Transactions on Circuits and Systems Iで発表されており、パワーエレクトロニクス回路の設計において新たな可能性を示しています。これからもこの分野の進展から目が離せません。