糖尿病治療の新たな希望、ニューレグリン1の発見
最近、早稲田大学理工学術院の合田亘人教授を中心とする研究チームが、糖尿病の根治に向けた新たなタンパク質、ニューレグリン1の発見に成功しました。この発見は、インスリン分泌細胞である膵β細胞の増加を促す可能性があり、糖尿病治療の新しい扉を開くものと期待されています。
1. 糖尿病の現状と課題
糖尿病は、慢性的な高血糖を特徴とする病気で、2023年には世界中で約5億3千万人の患者が存在すると推定されています。この数は2045年には7億人に達する見込みです。糖尿病の治療薬は多く開発されてきたものの、未だ根治薬は存在せず、インスリン分泌能力を持つ膵β細胞の量を増やすことが根本的な解決策とされています。
2. ニューレグリン1の発見
研究グループは、肝臓から分泌される因子であるヘパトカインの一種として、ニューレグリン1を同定しました。このタンパク質が、どのように膵β細胞の量を増加させ、インスリン分泌を促進するのかを解明することが、今回の研究の目的でした。マウスを用いた実験では、ニューレグリン1を投与することで膵β細胞の量とインスリン分泌量が増加し、結果的に血糖値が低下することが確認されました。
3. 研究方法と結果
今回の研究では、肥満を誘発する高脂質・高糖質の食事をマウスに15週間与えることで、2型糖尿病に類似した状態を作り出しました。食事開始から10週目までは膵β細胞の量に変化が見られなかったものの、15週目には膵島のサイズが急激に大きくなることが観察されました。これを受けて遺伝子の発現解析を行い、候補となる遺伝子群からニューレグリン1を特定しました。
4. 患者への応用可能性
研究結果によると、2型糖尿病患者の血中ニューレグリン1濃度は低く、これを補充することで膵β細胞の量を回復し、糖尿病を改善できる可能性があると示唆しています。ニューレグリン1の補充療法は、糖尿病の新たな治療法として注目されます。また、血中濃度が糖尿病の進行を予見するバイオマーカーにもなるかもしれません。
5. 未来への展望
今後の課題として、ニューレグリン1が人間の膵β細胞に対してどのような効果を持つのか、そして1型糖尿病に対する効果についても検証する必要があります。また、膵β細胞への指向性を如何に担保するかが、治療薬開発において重要となります。研究者たちは、ヒトへの応用が期待できるようにさらなる研究を進めていく考えです。
6. 研究チームのコメント
合田教授は、「ニューレグリン1が膵β細胞を直接刺激し増やす可能性があり、これは新たな治療法への道を開く可能性があります」と語っています。将来的にこの治療法が実用化されれば、多くの糖尿病患者に吉報をもたらすでしょう。
この研究成果は『Nature Communications』にて2025年3月13日に公開されました。今後の研究の進展が、糖尿病治療にどのような影響を与えるのか、目が離せません。