生理活性脂質代謝酵素SMS2の新たな機能発見
千葉大学を中心とする研究グループは、脂質代謝酵素SMS2が、従来知られていた機能に加え、新たな脂質代謝酵素活性を持つことを発見しました。この発見は、II型糖尿病や動脈硬化症、脳卒中といった疾患の病態解明や、新たな治療法開発につながる可能性を秘めています。
SMS2の驚くべき多様な機能
SMS2は、細胞膜を構成する脂質の一種であるスフィンゴミエリンを合成する酵素として知られていました。しかし今回の研究で、SMS2がホスファチジルコリン(PC)やホスファチジルエタノールアミン(PE)といった別の脂質を加水分解し、ジアシルグリセロール(DG)という生理活性脂質を産生することも明らかになりました。
特に注目すべき点は、SMS2が特定の種類の脂肪酸を含むPCやPEを基質として選択的にDGを産生する点です。この選択性は、SMS2の機能における特異性を示しており、特定の脂質代謝経路にSMS2が関与していることを示唆しています。
さらに、研究グループは、SMS2の酵素活性は細胞膜の脂質組成によって変化することを発見しました。具体的には、セラミドという脂質が存在する環境ではスフィンゴミエリン合成活性が、セラミドが存在しない環境ではDG産生活性がそれぞれ優勢になることがわかりました。これは、SMS2が細胞環境に応じて機能を切り替える、巧妙な制御機構を持つことを示唆しています。
35年ぶりの快挙!新規PLC酵素の登録
今回の研究成果により、35年ぶりに新規のホスホリパーゼC(PLC)が国際生化学・分子生物学連合(IUBMB)によって酵素番号(EC番号)に登録されました。PLCは、細胞膜の脂質を加水分解してDGを産生する酵素ですが、これまでその分子実体が不明なPLCが複数存在していました。今回の発見は、長年謎とされてきたPLCの分子実体の解明に大きく貢献するものです。
今後の展望と期待
この発見は、糖尿病や動脈硬化症といった疾患の分子レベルでの理解を深める上で重要な一歩となります。SMS2の機能を標的とした新たな治療法の開発も期待されます。また、本研究で用いられた膜タンパク質の精製法は、他の膜タンパク質の研究にも応用できる可能性があり、今後の生命科学研究の発展に貢献することが期待されます。
研究への支援
本研究は、科学研究費助成事業、住友財団、ホクト生物科学振興財団、その他複数の財団からの支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Multiple activities of sphingomyelin synthase 2 generate saturated fatty acid- and/or monounsaturated fatty acid-containing diacylglycerol
著者:村上千明、Kamila Dilimulati、角田(熱田)京子、川合 巧真、猪俣 翔、土方 寧久、堺弘道、坂根郁夫
雑誌名:The Journal of Biological Chemistry
DOI:10.1016/j.jbc.2024.107960