ユーグレナの光合成超複合体の構造を解明した新研究の成果

最近、静岡大学の長尾遼准教授を中心とした研究チームが、緑色系統に属する二次共生藻であるユーグレナから得られた光化学系Iと集光性色素タンパク質（PSI-LHCI）の立体構造を解明しました。この研究はアメリカの国際雑誌「Science Advances」に掲載され、大きな注目を集めています。

研究の概要

本研究では、ユーグレナ由来のPSI-LHCIの構造が2.82Åという高い分解能で決定されました。一般的にPSIは10種類以上のサブユニットから成るところ、ユーグレナのPSIはわずか8サブユニットから構成されることが分かりました。さらに、LHCIの配置は13個が非対称的に配置されており、伝統的な「LHCIベルト」を欠くという非典型的な特徴が確認されました。これによって、ユーグレナの光合成システムが独自の進化を遂げてきたことがわかります。

研究のポイント

1. 縮約型PSIの発見
ユーグレナのPSIは、通常の植物や藻類に比べて少ない種類のサブユニット（8種類）で構成される「縮約型」PSIであることが分かりました。これにより、PSIの最小限度の機能的構造が明らかになりました。

2. 非対称的なLHCIの配置
LHCIの配置は特異で、従来の緑藻や陸上植物とは対称的です。13個のLHCIが不規則に配置され、紅色系統の二次共生藻の特徴に似た様子が観察されました。これにより、ユーグレナのLHCIが異なる進化の過程を辿っていることが示唆されます。

3. 特異なカロテノイドの結合
研究結果によると、ユーグレナのLHCIには、ジアジノキサンチンという紅色系統特有のカロテノイドが結合していることが判明し、これは光捕集機構の多様性を示す新たな知見となりました。

4. モザイク的進化の証明
PSIコアサブユニットの一部であるPsaDはシアノバクテリア由来であることが確認され、ユーグレナPSI-LHCIが異なる系統の分子要素を組み合わせた「モザイク的進化」の産物であることが分かりました。

研究者のコメント

静岡大学の長尾准教授は、この発見を通じてユーグレナのPSI-LHCIが持つ独自の進化的特徴に触れ、光合成システムの進化の柔軟性を示す好例になると述べています。本研究の成果は、ユーグレナがこれまでの光合成生物と異なる道を辿っていることを知るための重要な鍵となっています。

研究の背景

酸素発生型光合成は、地球上の生命にとって重要なプロセスであり、これはPSIやPSIIといった膜タンパク質複合体を通じて行われます。ユーグレナは二次共生によって緑藻由来の葉緑体を持つ生物で、そのゲノムは緑藻、紅色系統、シアノバクテリアなど様々な系統の遺伝子を含むことから「モザイク構造」と言われています。しかし、これまではようやくユーグレナの光合成システムがどのように構築されているのかが明らかにされていなかったのです。

結論

今回の研究成果は、ユーグレナの光合成システムの進化的柔軟性を示す画期的な発見として、多くの研究者の注目を集めています。光合成の進化を理解する上で、ユーグレナは今後も重要なモデル生物として位置付けられるでしょう。研究が進むことで、さらなる光合成の仕組みや進化についての重要な情報が得られることが期待されます。

この研究は、ユーグレナの光合成メカニズムだけでなく、光合成の全体的な進化についても新たな視点を提供しています。今後の研究においてどのような新発見があるのか、ますます興味深いところです。

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