食中毒を引き起こすBECbの毒性メカニズムとは
日本女子大学の吉田徹助教をはじめとする研究チームは、食中毒の原因となるウェルシュ菌(
Clostridium perfringens)由来の毒素BECb(CPILEb)の細胞毒性や下痢原性のメカニズムを解明しました。これまでの研究によれば、ウェルシュ菌による食中毒はCPEというタンパク質によって引き起こされるとされていましたが、近年発生した集団食中毒ではCPEを産生しない株が確認され、その原因として新たにBECが同定されました。BECは二成分毒素で構成されており、その構成要素にはa成分とb成分がありますが、特にb成分であるBECbが毒性の中心であることが分かっています。
BECbの構造と毒性の原因
一般的な二成分毒素においては、a成分が主たる毒素として機能するのが特徴ですが、BECにおいてはb成分がその役割を果たします。新たな研究において、BECbが細胞膜に形成する孔(膜孔)の性質が毒性の発現に重要であることが判明しました。この膜孔は、セリンというアミノ酸で形成されていることが、BECbの毒性を引き起こす要因だとされています。
実際にBECbのセリンをフェニルアラニンに置換したところ、毒性が明らかに減少したことが示されました。これにより、BECbが毒性を持つためには、特定の構造が必要であることが証明されました。さらに、膜孔を閉じる化合物の使用によってBECbの細胞に対する毒性が消失することも確認され、この知見は今後の薬の開発に貢献する可能性があります。
食中毒の理解に向けた新たな一歩
今回の研究成果は、ウェルシュ菌が引き起こす食中毒の新たな診断法や治療薬の開発に向けた重要な基礎データを提供しました。ウェルシュ菌は、土壌や食品の中にも広く分布しているため、その感染予防には高い意義があります。今後の研究において、BECbの詳細な構造が解明されれば、より深くその作用機序を理解できると期待されています。
研究の社会的影響と今後の展望
ウェルシュ菌による食中毒は日本国内でも過去に複数回の集団発生が確認されており、その対策が急務です。本研究により明らかになったBECbの作用は、食中毒の原因究明の一助となるだけでなく、実用的な治療法の開発にも寄与するでしょう。引き続き、BECの研究を進め、食中毒防止に向けた具体的な施策を模索することが求められます。最終的に、公共の健康を守るための新しい手法が確立されることを願っています。