EV電池サーキュラーエコノミー白書が描く将来のビジョン
株式会社日本総合研究所が「EV電池サーキュラーエコノミー白書」を発表しました。この白書では、EV電池を取り巻く国際的な動向、国内政策、そしてサーキュラーエコノミーの形成における課題について詳しく述べられています。特に注目すべきは、中古EVの海外流出がサーキュラーエコノミーの大きな障害となっている点です。
白書作成の背景と目的
EV電池に欠かせないレアメタルは、その需要が高まる中で、各国の保護主義的な政策の影響で入手が難しくなっています。日本はレアメタルの資源が乏しいため、国外への流出を防ぎ、再利用することが重要です。日本総研は、2025年にはEV電池サーキュラーエコノミー市場が約8兆円に成長する可能性があると予測しており、この実現に向けた取り組みを提言しています。
世界の動向と国内の対応
近年、EUやアメリカ、中国ではそれぞれの国でサプライチェーンの供給を強化するための法整備が進められています。EUはリサイクルを重視した市場設計を模索し、アメリカは中間材の輸入を抑制、中国は原材料から加工までを国内の企業で賄う体制を作っています。これに対抗する形で、日本でもサーキュラーエコノミーに向けた政策が進められています。地方自治体でも実証的な取り組みが活発になってきていますが、個別の施策が多いため、効率的な資源循環につながらない場合もあります。
中古EVの海外流出の現状
現在、日本では約9万4000台の中古EVが海外に流出しています。これは国内で中古化されたEVの80%以上にあたります。また、これらのEVに搭載されたリチウムやコバルト、ニッケルなどのレアメタルが国外に流出しており、これは「EV鉱山」と呼ぶべき状況です。これらの資源は短期的な利益を求めて海外に出て行くため、国内におけるサーキュラーエコノミーの形成が必要です。
今後の展望と提言
本白書では、サーキュラーエコノミーを形成するために以下の5つの提言がなされています。
1.
リユース・リサイクル市場の形成 - 国が資源循環モデルを提示し、地域の企業と連携して市場を整えていく必要があります。
2.
電池診断技術の活用 - 中古EVやリユース電池の価値を適正に評価するための技術の整備が求められています。
3.
非経済価値の評価指標の構築 - 古いものを長く使う行動を評価し、経済的なインセンティブを提供するシステムが求められます。
4.
ユーザー開拓のための戦略 - 地域行政と連携して、新たな需要を開拓する積極的な取り組みが必要です。
5.
加工貿易型のサーキュラーエコノミー - 使用済み電池を資源化し、余剰の再生材を輸出するモデルを目指すべきです。
結論
保護主義的な政策の進行と地政学的リスクが高まる中で、日本においても「EV鉱山」の有効活用が求められています。サーキュラーエコノミーを形成し、持続可能なEV電池の未来を築くためには、今回の白書に示された提言に基づく具体的な行動が不可欠です。これにより、国内市場が強化され、新しい産業の創出につながることが期待されています。