白血病の悪化に関する新たな酵素の発見
千葉大学の研究チームが急性骨髄性白血病に関連する重要な発見をしました。悪性化の過程で関与するがん遺伝子「MYC」を支える新たな制御因子、酵素SETD1Bが白血病の進行においてどのような役割を果たすのかを突き止めたのです。
研究の背景
急性骨髄性白血病は血液のがんの一種で、白血球が発達する過程で遺伝子の異常が引き金となり発生します。この病気の特徴的な点は、がん細胞が急速に増殖し、正常な血液の生成を妨げることです。特にFLT3遺伝子に変異をもつ白血病は、再発リスクが高く、治療が困難です。
過去の研究では、ヒストンへのメチル化が白血病の進行に関与することが示されています。研究チームは2018年にSETD1Aというメチル化酵素が白血病細胞において生存に必要であることを発見しましたが、その詳細な機序は未解明でした。今回の研究では、SETD1Bがその役割を果たすことが明らかになりました。
研究の成果
研究チームは、FLT3変異を持つ白血病細胞でのヒストンH3K4メチル化に注目し、CRISPR技術を駆使して解析を行いました。その結果、SETD1Bが白血病細胞の生存に不可欠であることが確認されました。
実験では、SETD1Bのメチル化酵素としての機能を失わせた細胞株を利用しました。興味深いことに、SETD1Bは遺伝子本体においてヒストンH3K4メチル化を制御する役割を果たしており、特にがん原遺伝子MYCにおいて顕著でした。
この研究により、SETD1Bのメチル化活性がRNA合成にどのように関与するかを解明しました。SETD1Bの機能を失うと、RNA合成酵素・RNA Pol IIの反応が低下することがわかりました。その結果、MYCタンパク質を強制的に発現させても、白血病細胞の増殖は回復するものの、RNA合成が再生しないことが示されました。これにより、SETD1Bが転写の重要な調整因子であることが確認されました。
さらに、ヒストン脱メチル化酵素KDM5Cを破壊した場合は白血病細胞が悪性化することも示され、SETD1BとKDM5Cが白血病の悪化に絡むメカニズムが解明されました。
今後の展望
現在、SETD1Bを特異的に阻害する薬剤は存在しませんが、この研究の成果によりMYC依存性の白血病に対する新たな治療法開発につながることが期待されます。
研究の支援
本研究には、千葉大学をはじめ、大阪公立大学、藤田医科大学、熊本大学の共同研究体制のもと、日本学術振興会や日本医療研究開発機構などからの支援も受けています。今後、SETD1Bの機能解析が進むことで、白血病治療に新たな道が開かれるでしょう。
論文情報
本研究成果は、2025年5月8日付の科学誌『Leukemia』にオンライン発表される予定です。著者には和泉真太郎医師、金田篤志教授、星居孝之准教授が名を連ねています。さらに、SETD1Bに関する研究が血液がん分野での重要な発展となることが期待されます。