ゲノム医療を支える「μSP」技術の紹介
近年、癌遺伝子パネル検査の重要性が高まっており、それに伴って使用されるバイオマテリアル、特にホルマリン固定パラフィン包埋ブロック(以下、FFPE)の品質管理がますます重要視されています。FFPEから抽出されるDNAにおいて、約5%の症例にコンタミネーションが見られることが問題視されており、これは遺伝子異常の検出感度を著しく低下させ、患者の治療法を選定する妨げになっています。そこで今回は、こうした問題を解決するための新しい病理技術「μSP」を紹介します。
「μSP」の概要と特長
「μSP」は、FFPEを作成する過程においてコンタミネーションを防止する新しい技術です。この技術では、特殊なシートでFFPEを包み込むことで、細胞レベルの混入を100%防止し、核酸の混入も防ぐことができます。具体的には、897種類のシートを評価し、以下の6項目に基づいて必要な特性を検討しました:
1. 目開き
2. 厚さ
3. 薬品耐性(特にキシレン耐性)
4. 透水性(透水係数)
5. 保水性(保水率)
6. 細胞通過試験
これらの評価を基に、要件を満たしたシートを用いて袋形状にしてカセットを作成。最終的に、このプロトコールに従った梱包技術を利用して、FFPEの品質向上を図りました。
コンピュータ支援技術としての役割
近年、精密なゲノム医療に向けた技術進化の中で、特に病理分野においても新たな試みが進められています。「μSP」の導入により、病理検査室で行われる各種検査において、より信頼性の高い結果を得ることが期待されています。従来の方法では難しかったコンタミネーションの防止が実現され、診断精度が向上することで、患者への最適な治療法を選択する道が開かれます。
プロトコールの公開
この新技術の詳細なプロトコールは、
こちらのリンクから確認可能です。特に、日常の病理検査業務において用いることができる技術として、多くの医療機関への普及が期待されています。
結論
「μSP」は精密なゲノム医療の実現に向けた重要な一歩です。今後、さらなる技術の向上と普及が進むことで、より多くの患者が恩恵を受けることができるでしょう。日々進化する医療技術の中で、病理学の領域でも新しい風が吹いていることを実感させる事例です。
本記事は、著者が発表した論文に基づいて作成されました。論文の著者には岩屋啓一氏をはじめ、複数の研究者が名を連ねています。研究成果はPLOS ONEに掲載されており、詳しくは
こちらでご覧いただけます。