酵素の新発見
2025-08-08 15:18:18

酵素の動きを原子レベルで可視化する新技術が生み出す未来

酵素の動きを原子レベルで観察する革新技術の誕生



私たちの体をはじめとした生命の基本は、分子の精密な反応によって維持されています。これらの反応を担うのが「酵素」と呼ばれるタンパク質です。酵素は、特定の分子を結びつけたり切断することで、細胞内外の様々な化学反応を調整しています。近年、この酵素の構造変化を原子レベルで観測する新しい計測技術が開発され、私たちの理解を一新する可能性が生まれつつあります。

酵素の高速反応の秘密



酵素は、ミリ秒という極めて短い時間スケールで自らの立体構造を変化させ、反応を遂行します。しかし、ナノメートルサイズの酵素の動きを詳細に観察することは非常に困難でした。これまではX線結晶構造解析やクライオ電子顕微鏡を用いて静止した構造の観察は可能でしたが、動的な変化を捉える手法は限られていました。そこで、東京都立大学大学院の研究チームが開発したのが、核磁気共鳴(NMR)分光法を応用した新たな計測技術です。この技術により、酵素の動きが生理的条件下でリアルタイムに観察可能になりました。

YUH1酵素の機能解明



今回の研究では、酵母由来の脱ユビキチン化酵素「YUH1」を対象にしました。この酵素は、細胞内で不要なタンパク質を分解する際、ユビキチンという分子を再利用する重要な役割を果たしています。そのメカニズムを詳細に解析することで、私たちは酵素がユビキチンをどのように認識し、切断・再利用するのかについて新たな理解を深めました。特に、结构变化を立体的に再現することにより、YUH1が「動きながら働く」という本質を明らかにしました。

ゲーティングリッドの発見



研究の結果、YUH1の末端領域(N末端)や活性部位周辺に位置する「クロスオーバーループ」が大きく動的に変化することがわかりました。特にN末端は、ユビキチンを取り込む際にふたのような役割を果たし、その位置を大きく変えることが観測されました。この領域は「ゲーティングリッド」と名付けられ、ユビキチンを捉える新たな認識機構が示唆されました。加えて、この領域の柔軟な動きがYUH1の酵素活性に不可欠であることが実証されました。

生命現象への影響



この新技術の開発は、酵素の動的な性質を理解する上で重要な一歩といえます。生命現象の本質を解明することで、創薬や疾患治療に向けた新たな可能性が広がります。また、YUH1を通じてパーキンソン病やがんなどに関連するヒトの酵素の機能も探求され、将来的には新たな治療法の開発に寄与することが期待されます。

未来への展望



本研究の成果は、酵素やタンパク質の研究を新たな次元へと引き上げるものです。今後、この計測技術は他の生体分子に対しても応用される見込みで、様々な生命現象の解明に貢献することでしょう。酵素の動きが生命の精密なメカニズムを解き明かす鍵となるかもしれません。

論文情報


著者:岡田真由、立石泰、他
雑誌名:『Journal of the American Chemical Society』
DOI:10.1021/jacs.5c06502

本研究は、科学技術振興機構(JST)や日本学術振興会(JSPS)の支援によって実施されました。


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