免疫の核心を理解する新たなアプローチ
千葉大学大学院医学研究院の田中知明教授と東海大学医学部の細川裕之准教授率いる研究グループは、免疫を担う重要な細胞であるT細胞の分化には最初のスイッチが存在することを発見しました。この研究は、感染症やがんに対する免疫の理解を深め、T細胞性白血病や免疫不全症の病態解明にも寄与する可能性があります。
T細胞の役割
私たちの体の免疫は、さまざまな侵入者に立ち向かう力を持つT細胞によって支えられています。T細胞は、骨髄内の造血幹細胞から成長していく過程で、胸腺に移動し、そこで受け取るNotchシグナルによって分化します。その結果、「T細胞系譜プログラム」が起動し、T細胞の命が始まります。このメカニズムは長い間神秘に包まれていましたが、研究者たちは新たな解析技術を用いてこの過程を解明しました。
Notchシグナルの重要性
本研究グループは、「Cas9-LP細胞」と呼ばれる遺伝子操作が可能な細胞を用いて、T細胞の初期段階におけるNotchシグナルの影響を精密に調査しました。これにより、RUNXと呼ばれる転写因子の機能がNotchシグナルによってどのように変わるのかを明らかにしました。
分化プログラムのスイッチ
研究成果によると、Notchシグナルが細胞に入ると、RUNX1の役割が「抑制役」から「促進役」へと劇的に変わることがわかりました。具体的には、Notchシグナルが受け取られる前、RUNX1はCTCFという別の転写因子と結合し、T細胞に必要な遺伝子の発現を抑制していました。しかし、Notchシグナルが受信されると、RUNX1はCTCFから離れ、新しい結合先へと変化を遂げ、その結果、T細胞に必要な遺伝子が一斉に活性化されることが示されたのです。この変化が、T細胞分化の開始を決める“最初のスイッチ”として機能しています。
今後の展望
この発見により、T細胞がどうやって免疫に関与するかを理解する新たな視点が得られました。特に、T細胞性白血病や免疫不全症においては、Notchシグナルの異常が深く関与していると考えられています。また、iPS細胞や造血幹細胞からのT細胞の生成技術を向上させ、安全で効率的な再生医療に向けた期待も高まっています。研究の成果は、2025年12月4日に国際科学誌「Journal of Experimental Medicine」に掲載されます。
この研究は、細胞の運命が決まるメカニズムを把握する重要なステップであり、人類の免疫システムへの貢献が期待されます。今後、その成果がさまざまな医療技術に生かされることを願っています。