サルはなぜB型肝炎ウイルスに感染しないのか
最近、東京理科大学の研究チームが発表した研究によると、サルがB型肝炎ウイルス(HBV)に感染しない理由が解明されつつあります。この研究は、B型肝炎ウイルスがどのようにして宿主に感染するのかを理解するための重要な知見を提供しています。
B型肝炎ウイルスの感染メカニズム
B型肝炎ウイルスは、人間やチンパンジーに感染しますが、遺伝的に近いアカゲザルやカニクイザルには全く感染しません。このウイルスは胆汁酸輸送体(NTCP)というタンパク質を利用して肝細胞に感染します。肝細胞の表面には、NTCPが存在し、ウイルスはこのNTCPと結合することで細胞内に取り込まれます。
研究チームは、カニクイザルのNTCPとヒトのNTCPの立体構造を比較しました。その結果、カニクイザルのNTCPにはウイルスと結合しにくい構造が存在することが明らかになりました。一方、ヒトのNTCPはウイルスに結合しやすい構造を形成していることがわかりました。
研究の背景と目的
B型肝炎は、世界中で250万人以上の人々が感染している疾患であり、慢性B型肝炎を完治させる効果的な治療法が未だ確立されていません。このような背景の中、ウイルスの動物間伝播のリスクを評価するためには、ウイルスが感染するメカニズムを理解することが非常に重要です。
研究方法と結果
研究チームは、クライオ電子顕微鏡と分子動力学シミュレーションを用いて、NTCPの構造とダイナミクスを解析しました。その結果、2つの重要なアミノ酸がHBV受容体機能に影響を与えることが確認されました。
1つ目は、NTCPの158番目のアミノ酸で、ヒトではグリシン(G158)、サルではアルギニン(R158)です。この違いにより、胆汁酸トンネルへの結合が妨げられ、ウイルスがNTCPに結合できない原因となっていることがわかりました。
2つ目は、86番目のアミノ酸で、ヒトではリシン(K86)、サルではアスパラギン(N86)です。リシンの方がpreS1との安定した結合を形成しやすいという性質が、サルのNTCPにおいては存在しないことが判明しました。
研究の意義
この研究成果は、ウイルス感染のメカニズムを解明するだけでなく、動物間の種間の壁がどのように機能しているのかを理解する上でも重要な知見となります。サルは、進化の過程でHBV感染を回避するためのメカニズムを獲得したと考えられています。これは、ウイルスが異なる動物種から流入するのを防ぐ重要な仕組みとして機能しているのです。
また、研究を主導した渡士幸一客員教授は「種間の壁」の重要性を強調し、このメカニズムを理解することが新型コロナウイルスの感染などに対する予防策を考える上でも役立つと述べています。
研究の未来
今後の研究では、この知見を基にB型肝炎ウイルスの感染メカニズムをさらに深く解明し、さまざまなウイルスの動物間伝播のリスクを評価する方法を模索することが期待されています。研究の進展によって、B型肝炎の治療法確立につながる未来が開けるかもしれません。