大雪山系の遺跡が明らかにする高標高地帯への人類の適応過程
北海道の大雪山国立公園には、標高約2,100メートルの位置に発見された白雲岳小泉岳遺跡があります。この遺跡は1924年に初めて発見されて以来、さまざまな科学者の関心を集めてきましたが、今まで詳細な調査は行われていませんでした。最近、北海道大学総合博物館の中沢祐一准教授や札幌国際大学の髙倉純教授などからなる研究チームが、この遺跡の新たな調査を行い、約3,000年前に高標高地帯に人類が居住していたことを示す証拠を発表しました。
調査の背景
高標高地帯への人類移住の歴史を解明することは、人類の進化および適応能力を理解するうえで極めて重要です。高標高地帯は、一般的に血液中の酸素濃度が著しく減少する標高2,500メートル以上と定義されています。北海道では、2,000メートルを越えると、森林限界を超えて特異な周氷河地形が発達します。この環境は、資源の種類や分布が平野部とは異なるため、人々は異なる居住様式や生存戦略を選択せざるを得なかったと考えられます。
白雲岳小泉岳遺跡は、発見以来長らく忘れ去られた存在でしたが、北海道大学と札幌国際大学の研究者たちは2019年と2023年の2度にわたり調査を実施しました。調査の結果、遺跡の範囲は南北53メートル、東西64メートルであることが確認され、南向きの緩やかな斜面に遺物が分布していることがわかりました。この遺物は、主に黒曜石で作られた石器であり、周囲の環境による影響を受けて有用な形状に破砕されていることが確認されました。
調査方法
本調査では、歩行踏査を用いて地表面の遺物を確認し、位置情報や遺物の特性を記録しました。特に、黒曜石水和層法を用いて遺物の年代を推定し、約3,000年前の証拠が得られました。また、黒曜石の元素分析から、この遺物が大雪山とオホーツク海の産出地に由来することも判明しました。
研究チームは、この遺跡がなぜ特定の場所に存在するのかという問いに対し、弓矢を持った狩猟者たちの狩場であった可能性や、山越えルート上のキャンプ地だった可能性を示唆しています。
未来への期待
高標高地帯への考古学的調査はこれまで十分には行われておらず、その成果は平野部の発掘調査に依存していました。大雪山に所在する遺跡は、今後も調査を進めることで、さらに多様な人類活動の証拠を明らかにすることが期待されています。特に、環境変化や社会の移り変わりに伴う古代人の適応過程を解明することは、人類進化における重要なカギとなるでしょう。
この研究成果は、2025年7月30日にJournal of Field Archaeologyに掲載される予定です。過去の無文字社会における文化を理解するための道筋が、この調査を通じて示されることを期待しています。