早期心臓リハビリテーションの新たな展望: ADHF治療の革命
心不全という病は、心臓の機能が低下して十分な血液を全身に送れなくなる状態を指します。特に急性非代償性心不全(ADHF)は、瞬時に悪化し、呼吸困難や体液貯留によって入院が必要となるケースが多いです。しかしこの度、北里大学医療衛生学部の神谷教授らが進めた研究により、入院している心不全患者に対する早期心臓リハビリテーション(CR)の効果が新たに示されました。この試験は、医学界における重要な一歩を意味します。
この研究は、2025年6月に米国の心臓病学会誌『JACC: Heart Failure』に発表されたもので、急性心不全の患者に早期に運動療法を導入することで身体機能や生活の質の向上につながる可能性を探りました。この多施設ランダム化比較試験(RCT)は、北里大学病院、北里大学メディカルセンター、亀田総合病院の3か所で行われ、91名の患者が対象となりました。
研究の概要と結果
介入群には入院早期から運動療法を基盤としたCRが導入され、通常治療群と比較されました。主要評価項目の一つ、6分間歩行距離(6MWD)では、介入群が平均75.0mの改善を示したのに対し、対照群は44.1mの改善にとどまり、両者の間には30.9mという有意な差が見られました(P=0.021)。
さらに、認知機能や生活の質、歩行への自信、退院後の日常生活や身体活動量においても改善が見受けられ、これが臨床的な意義を持つことを示しました。
心不全の患者が入院中に身体機能を維持することは、その後の生活や生命予後に大きな影響を及ぼします。従来の研究は主に退院後数か月経過した慢性心不全患者に焦点を当てていましたが、今回は急性期からのリハビリの重要性が裏付けられる結果となりました。
研究の意義と今後の展望
本研究は、急性心不全からの回復に向けた新たなアプローチを提供します。早期にリハビリテーションを取り入れることで、患者は退院後も社会参加などの生活に戻りやすくなる可能性が高まります。このように、主治医が早期にリハビリの重要性を認識することが、患者の予後を改善するカギとなるでしょう。
さらに、研究成果はすでに日本循環器学会の「心不全診療ガイドライン」にも引用されており、急性期からのリハビリテーションの重要性が広く認識されつつあります。この成果が臨床現場にどのように反映され、さらなる治療法の発展につながるか、今後の動向が注目されます。
参考論文情報
- - 掲載誌: JACC: Heart Failure 2025年6月号
- - 論文名: Effects of Acute Phase Intensive Exercise Training in Patients With Acute Decompensated Heart Failure
- - 著者: Kamiya K, et al.
- - URL: JACC: Heart Failure
心不全治療のさらなる進展を期待したいと思います。