金沢工業大学の革新技術がWIPO賞を受賞
金沢工業大学の革新複合材料研究開発センター(ICC)所長、鵜澤 潔教授が率いるチームが、全国発明表彰の「WIPO賞」を受賞することとなりました。この栄誉は、「風力推進船の帆の高さが伸縮可能な硬質翼の発明」に対して与えられたもので、発明技術の社会実装が船舶業界におけるネットゼロ・エミッションの達成に貢献する可能性が高く評価されました。
発明の目的と背景
2013年以降、新たに建造された船舶は、エネルギー効率設計指標(EEDI)という規制下に置かれ、温室効果ガス(GHG)の排出量削減が義務化されています。特に2016年のパリ協定以降、国際海運分野においても温室効果ガスの排出削減は急務となっています。2023年には、国際海事機関(IMO)によるGHG削減戦略が策定され、2030年までにGHG排出量を半減し、2050年にゼロを目指す目標が掲げられました。
硬翼帆の技術開発
鵜澤教授らは、このような国際的な動向に先駆けて、再生可能エネルギーを活用した省エネルギー船舶技術の開発に取り組み始めました。プロジェクトは2009年に開始され、「ウインドチャレンジャー」と名付けられた硬翼帆を搭載した風力推進船の開発へとつながりました。
硬翼帆の特長
硬翼帆にはいくつかの優れた特徴があります。
- - 構造が簡単: マストと帆構造のみで、船への搭載が容易です。
- - 大面積: 帆の高さは60m、幅は15mで、軽量化が図られています。
- - 自動制御: 風速や風向に応じて、最適な高さと迎角を自動調整できます。
技術の実証とプロジェクトの成果
実際に、商船三井との協力で、2022年に世界初のウインドチャレンジャーを搭載した「松風丸」が完成しました。この船は、約18か月間にわたり、日本向けに石炭を輸送し、その性能を実証しました。航海期間中には、最大で17%の燃料を節約できるという結果が得られ、実用性が示されています。
商船三井は、2050年までにネットゼロ・エミッションを達成するため、2030年までにウインドチャレンジャー搭載船を25隻、2035年までには80隻の投入を計画しています。
WIPO賞受賞の意義
この度のWIPO賞の受賞は、単なる発明の評価に留まらず、技術の社会実装が持つ重要性と、持続可能な未来への道筋を示すものとして高く評価されました。船舶業界におけるネットゼロ・エミッションの達成に向けた新たな一歩となりうるでしょう。この技術が今後、さらなる発展を遂げ、多くの船舶に採用されることを期待したいと思います。
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