新たな風を吹き込む畠山丑雄の『叫び』
2026年1月14日に刊行予定の畠山丑雄の最新中篇小説『叫び』が、第174回芥川賞の候補作品に選ばれた。この作品は、彼が約二年半ぶりに発表する文芸作品であり、その潜在的な力強さから「戦後日本」を問う現代小説として賞賛を集めている。また、畠山氏は2025年に刊行された単行本『改元』が三島由紀夫賞候補となり、多くの注目を浴びた作家である。
物語の舞台
物語は大阪府茨木市を舞台に進行する。主人公、早野ひかるは、自暴自棄に陥った生活を送りながらも、ある晩、遠くから響く鐘の音に引き寄せられ、生活保護を受けている男性と出会う。この出会いをきっかけに早野の生活は大きく変化していく。彼女は自らの過去を否定されつつも、次第にその男性を「先生」と呼び、銅鐸作りや茨木の歴史を学び始める。
過去と未来の交錯
物語の中では、茨木がかつて盛んだった罌粟栽培や阿片製造にも触れられている。青年が満州で「陛下のための花束」を編むことに夢を抱いていた過去が描かれ、早野はその青年に思いを馳せる。そして、いま自分がここにいることの意味を深く考えるようになり、自らの「聖(ひじり)」とも呼べる女性と大阪・関西万博に行く約束を交わす。この約束を通じて、令和と昭和との繋がりが浮かび上がり、封印されていた叫びが溢れ出してくる様子が描かれている。
著者、畠山丑雄について
畠山丑雄は1992年に大阪に生まれ、京都大学文学部を卒業した実力派作家である。彼のデビュー作「地の底の記憶」は文藝賞を受賞し、その後も作品を精力的に発表している。『叫び』は彼の新たな挑戦であり、社会のさまざまな側面を探求する力強い作品として、多くの読者の期待を背負っている。
書籍情報
『叫び』は四六判変小ハードカバーで144ページ、定価は1,870円(税込)、ISBN978ー4-10-356751ー6。詳細な内容は公式サイト(
新潮社)より確認できる。読者にとって、心を揺さぶるこの作品は新たな出発点となることだろう。