ガザ料理と人々の物語
今年6月3日、株式会社オレンジページから『ガザ・キッチン パレスチナ料理をめぐる旅』が発売される。この書は、現代を代表する著者ライラー・エル=ハッダードとマギー・シュミットによるもので、世界中で高く評価されている『The Gaza Kitchen』の日本語版だ。翻訳監修には藤井光氏が、監修には岡真理氏が関わっており、信頼性の高い情報が詰まっている。
ガザの美しい料理と生活
本書では、ガザの豊かな食文化を通じて、現地の人々の生活や思いを描いている。家庭料理に込められたストーリーや、料理人や農家、商人たちの真剣な仕事ぶりが、写真と共に紹介されている。特に、ガザ料理は、食を通じて故郷や歴史を思い出す重要な役割を果たしており、民族浄化によって故郷を追われた人々がその郷土料理を守り続けている姿は、この地域の文化を理解する上で欠かせない。
世界中で愛読される重要な本
『ガザ・キッチン』は、2012年と2016年にアメリカで発行された際、多数のメディアに取り上げられ、特に『エコノミスト』や『ニューヨーク・タイムズ』での紹介が印象的だ。これにより、パレスチナ料理の草分け的存在として、その価値が広く認知されている。今回の第三版には新たなレシピや、著者が2019年に国連代表団のメンバーとしてガザを訪れた際の体験談も追加され、料理を通じて現代のガザの状況を知る手助けとなる。
料理を通じて伝えるガザの現状
本書に収められているレシピは、多様な料理を提供している。一例として、成功したガザの家族のレシピが紹介され、かぼちゃとレンズ豆を使ったシチューや炭火焼きのチキンなどが登場する。これらの料理は、家庭で受け継がれる伝統だけでなく、現在の生活や政治的な状況を反映している。例えば、ガザの日常生活における停電問題が、料理や食文化にどのように影響を与えているかも考察されている。
文化的背景から読み取るガザの精神
「食」とは単なる栄養摂取の手段ではなく、故郷やアイデンティティを象徴するものである。本書は、食文化を通すことで、ガザの人々の生活を掘り下げ、彼らのアイデンティティや抵抗の歴史を描いている。岡真理氏は、本書を「パレスチナ人の声を聞くための一つの証言文学」と評しており、この視点は非常に重要だろう。
編集者の目を通して
著者のエル=ハッダードとシュミットは、それぞれの視点からガザ料理とその背後にある人々の思いをしっかりと捉えている。彼女たちの経験が反映された本書は、料理だけでなく、ガザにおける生活や抵抗の形を理解するための貴重な資料である。翻訳監修を行う藤井光氏や、監修者の岡真理氏の存在も、この本の信頼性と深みを増している。
ガザの食文化に触れることは、私たちが故郷を追われた人々のストーリーを知り、感じるきっかけにもなる。『ガザ・キッチン パレスチナ料理をめぐる旅』は、ただの料理本ではなく、歴史的背景や社会的な現実を知るための現代の必読書といえるだろう。美しい写真と共に、パレスチナ料理の魅力と、その背後に広がる人々の物語をぜひ体感してほしい。