卵黄による食物蛋白誘発胃腸炎の新メカニズムを解明する研究成果

卵黄による食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の新たな発症メカニズム

千葉大学大学院医学研究院の井上祐三朗特任准教授と佐藤裕範特任研究員を中心とする研究グループが、東海大学やかずさDNA研究所と共同で、卵黄による食物蛋白誘発胃腸炎（FPIES）の新しい発症メカニズムを解明しました。この研究成果は、2025年2月13日に国際医学雑誌『Clinical & Experimental Allergy』にオンライン掲載される予定です。

FPIESとは

FPIESは、非IgE依存性の食物アレルギーで、摂取から数時間後に嘔吐や下痢、さらには低血圧といった重篤な症状を引き起こすことで知られています。国内では、年間約2,800名の患者が発症しており、特に乳幼児における卵黄によるFPIESは重症化する危険性があるため、そのメカニズムの解明が求められています。しかし、これまでその詳細な原因については十分に明らかにされていませんでした。

研究の手法

この研究では、最新の質量分析技術を使用した高深度プロテオーム解析を行いました。卵黄FPIESと診断された患者17名を対象に、5gの加熱卵黄を用いて経口食物負荷試験（OFC）を実施しました。試験は、OFC実施前と摂取後1時間、2時間後に血液と唾液のサンプルを採取し、症状の出ている状態のサンプルも追加で収集しました。このデータから、血清および唾液中に存在するタンパク質の変化を詳細に解析しました。

研究の成果

解析の結果、血清からは4,138個、唾液からは7,202個のタンパク質が同定されました。特に、OFC 2時間後の血清において、プロテアソームやネジレーション関連タンパク質の増加が陽性群に特有のものであることがわかりました。また、症状発現時には、好中球の活性化や細胞外トラップ形成に関連するタンパク質も確認され、これが炎症を悪化させる要因であることが示唆されました。このことから、FPIES患者における症状発症前に見られるプロテアソームやネジレーション関連タンパク質の一時的な増加が様々な自然免疫細胞の活性化に寄与している可能性が考えられます。

今後の展望

今後は、FPIESの症状が出る前に増加するプロテアソームやネジレーション関連タンパク質が具体的にどのような役割を果たすのかを解明する必要があります。また、これらのタンパク質の変動を診断指標として活用し、FPIESの新しい診断法や治療法の開発に取り組むことが期待されています。

研究プロジェクトについて

本研究は、公益財団法人ニッポンハム食の未来財団からの支援を受けて実施されました。

論文情報

- タイトル: In-depth proteomic profiles prior to symptom development in food protein-induced enterocolitis
- 著者: 井上祐三朗（千葉大学）、佐藤裕範（千葉大学）、石川将己（かずさDNA研究所）、川島祐介（東海大学）ほか
- 雑誌: Clinical & Experimental Allergy
- DOI: 10.1111/cea.70007