脂肪由来幹細胞の心筋保護研究の新たな展開
京都薬科大学が国立台湾大学との共同研究を通じて、脂肪由来幹細胞の分泌因子を強化することで、心筋梗塞後の血流改善や抗がん剤による心毒性の軽減に向けた新たな治療戦略を打ち出しました。本研究は、国際ジャーナル『Regenerative Therapy』と『Biology Direct』に掲載され、心疾患とがん治療への貢献が期待されています。
共同研究の概要
今回の研究は、京都薬科大学が独自に行っている研究支援事業「国際共同研究」の一環として実施されました。このプロジェクトでは、日本と台湾の2つの大学間での協力がなされ、独自のアプローチにより心筋保護の可能性が探られました。研究は、2つの主要な成果に集約されています。
1つ目の研究成果:酪酸による血流改善
最初の成果は、酪酸で処理したヒト脂肪組織由来幹細胞が、心筋梗塞モデルラットにおいて心臓の血流を改善することを見つけたものです。酪酸は主に乳製品や腸内細菌によって生成される短鎖脂肪酸の一種であり、幹細胞の分泌機能を向上させることが確認されました。
この効果は、SPECT/CTという画像診断法を駆使して検証され、酪酸が脂肪組織内の幹細胞を活性化し、結果的に心筋梗塞後の心臓への血流を増加させる仕組みが明らかになりました。
2つ目の研究成果:エクソソームによる心毒性の抑制
もう一つの研究成果では、抗がん剤ドキソルビシンによる心毒性を抑えるメカニズムを解明しました。この研究では、脂肪由来幹細胞から分泌されるエクソソームが心筋細胞に存在するアポトーシス(細胞死)を抑制することがわかりました。
このプロセスには、保護因子であるClusterinの発現増加とPI3K/AKT経路の活性化が関与しているとされ、抗がん剤治療を受ける患者にとって大きな希望となる内容です。
研究の意義
これらの研究成果は、超高齢社会の進展やがん治療の発展により増加が予想される心疾患への新たな治療法の開発として期待されています。特に、高齢者やがん治療を受ける患者において、心臓への負担を軽減し、より良い生活の質を提供することが目標です。
こうした先進的な治療法の開発は、再生医療やがん治療の将来を大きく変える可能性を秘めています。本研究の成果は、今後の医療技術に貢献する重要な一歩となるでしょう。
参考文献
1.
Regenerative Therapy
- 論文タイトル:
Butyrate-preconditioned human adipose-derived stem cell-conditioned medium enhances myocardial perfusion after infarction
- 著者: 河渕真治 他
- 掲載日: 2025年11月19日
- DOI:
10.1016/j.reth.2025.11.007
2.
Biology Direct
- 論文タイトル:
Extracellular vesicle-enriched secretome of adipose-derived stem cells upregulates clusterin to alleviate doxorubicin-induced apoptosis in cardiomyocytes
- 著者: Wan-Tseng Hsu 他
- 掲載日: 2025年7月16日
- DOI:
10.1186/s13062-025-00664-5
このように、京都薬科大学と国立台湾大学の共同研究は、心筋保護のための革新的なアプローチを提供し、医療分野での新たな治療法の道を切り開いています。