紅藻の光合成構造
2025-09-24 11:03:30

極限環境に生息する紅藻の光合成構造の新たな特徴を解明

研究の概要



静岡大学農学部の研究グループが、極限環境で生育する紅藻 Cyanidium caldarium NIES-551 についての新たな研究結果を発表しました。本研究ではこの紅藻から得られた光化学系I(PSI)と集光性色素タンパク質(LHC)を含むPSI-LHCI複合体に焦点を当て、その生化学的な特性や光学的特性が分析されました。

今回の研究では、タンパク質サブユニットの一次配列の比較によって、近縁種のCyanidiococcus yangmingshanensis NIES-2137との顕著な差異が確認されました。この知見は、紅藻の光合成機能における進化的な多様性を理解するうえで重要な情報となります。特に、NIES-551株のPSI-LHCIは、カロテノイドとクロロフィルの比率が低く、734 nmで光を赤方偏移させた蛍光を示しました。これにより、その光エネルギー捕集能力が最適化されていることが示唆され、極限環境における光合成の進化的適応を示す貴重な証拠となりました。

研究詳細



研究は静岡大学農学部の髙橋壱吹学部生と長尾遼准教授を中心に行われ、理化学研究所の堂前直ユニットリーダーとの共同作業として進められました。研究チームは、戦略的な精製方法を用いてPSI-LHCI複合体を取り出し、そのタンパク質構成や色素組成、吸収や蛍光特性を評価しました。この作業を通じ、主なPSIやLHCのサブユニットが明らかになり、また白色光吸収のピーク波長の違いも観察されました。

NIES-551株のPSIは、既存のデータと照らし合わせた際にCd. caldariumの配列と一致すると共に、Cc. yangmingshanensisとの間には最大で64%の配列差が確認されました。特に興味深いのは、NIES-551株のカロテノイド量が特に少なく、ゼアキサンチンやβ-カロテンの不足が指摘された点です。これは、光捕集戦略における種特異的な適応を示唆しています。

さらに、低温下での蛍光測定を行い、734 nmの赤方偏移特性が確認されました。この光捕集方式は、NIES-2137株が持つ727 nmピークと大きな違いを示しており、Cyanidiales目の光合成機能の多様性について新たな視点を提供します。

研究の意義



長尾遼准教授はこの研究成果が、紅藻の光合成装置の構造的豊かさを解明する大きな一歩となることを強調しました。そして、この研究は今後の高分解能な構造分析を通じて、光合成装置が極限環境にどのように適応しているのかを探るうえでの基盤を提供するものです。

本研究の成果は、2025年9月17日に国際雑誌「Photosynthesis Research」に掲載される予定です。これらの成果は、極限環境に適応する生物の光合成メカニズムを理解し、他の生物と比較することによって、生命の進化に関する貴重な知見をもたらします。

論文情報



  • - 掲載誌名: Photosynthesis Research
  • - 論文タイトル: Comparative analysis of biochemical and sequence features of PSI-LHCI supercomplexes from Cyanidium caldarium NIES-551 and Cyanidiococcus yangmingshanensis NIES-2137
  • - 著者: Ibuki Y. Takahashi, Takehiro Suzuki, Shunsuke Hirooka, Naoshi Dohmae, Shin-ya Miyagishima, Ryo Nagao
  • - DOI: https://doi.org/10.1007/s11120-025-01169-y


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