腸内細菌由来のHYAが脂肪細胞を制御し代謝改善に貢献
近年、腸内細菌が健康に与える影響が注目されています。その中でも、腸内細菌によって産生される代謝物「HYA(10-hydroxy-cis-12-octadecenoic acid)」の新たなメカニズムについて、静岡県立大学、神戸大学、Noster株式会社による共同研究が発表されました。この研究は、2025年5月16日付で国際学術誌『Nutrients』に掲載されています。
HYAの新たな発見
本研究では、腸内細菌の善玉菌「ラクトバチルス属」が食事から摂取したリノール酸を代謝し、HYAを生成するというメカニズムが解明されました。これまでの研究では、HYAが腸の健康や炎症の抑制に寄与することが示されていましたが、今回の成果によりHYAが脂肪細胞の肥大を直接制御することが明らかになったのです。
研究責任者である静岡県立大学の細岡哲也准教授は、「これまで知られていたHYAの健康効果に加え、脂肪細胞に直接作用するという新たな観点が発見されたことは非常に意義深い」と述べています。腸内細菌が生成する成分が脂肪組織に影響を与える可能性があることは、肥満及び代謝性疾患への新たな治療アプローチの一環として期待されます。
研究の実験と結果
この研究では、高脂肪食を与えられた肥満マウスにHYAを投与し、投与されていないマウスと比較しました。その結果、HYAを投与されたマウスでは脂肪細胞のサイズが著しく小さくなり、脂肪細胞肥大を抑える効果が確認されたのです。
また、3T3-L1細胞と呼ばれる脂肪細胞を培養した実験では、HYAを加えることで脂肪の蓄積が抑制されると共に、脂肪合成に関与する遺伝子群(FAS、ACC1、SCD1)が抑制されたことが明らかになりました。一方、脂肪を燃焼させる遺伝子(CPT1A)は活性化されました。これにより、HYAが脂肪合成を抑え、脂肪酸の酸化を促進することで、脂肪細胞の肥大を抑えるメカニズムが示唆されました。
細胞内のカルシウム濃度がHYAの影響で高まることが確認され、カルシウム濃度の増加がAMPKという重要な酵素を活性化することが分かりました。このAMPKはエネルギーの調整において重要な役割を果たしています。ここで発見されたメカニズムは、従来知られていた脂肪酸受容体(GPR40やGPR120)とは異なる新しい経路によるものであり、HYAの効能が腸内に留まらず脂肪組織にまで影響を及ぼす可能性を示すものです。
今後の展望
本研究の結果は、腸内細菌によって作り出される「ポストバイオティクス」が、腸内から脂肪組織に至るまでの機能を変化させることを示唆しており、肥満や代謝性疾患に対する予防・治療法に新しいアプローチを提供する可能性があります。今後のさらなる研究によって、このメカニズムの詳細が解明されることが期待されます。
参考文献
研究論文:Matsushita R, Sato K, Uchida K, et al. A Gut Microbial Metabolite HYA Ameliorates Adipocyte Hypertrophy by Activating AMP-Activated Protein Kinase.
Nutrients, 2025; 17(8):1393.
DOI
Noster株式会社について
Noster株式会社は腸内細菌が生み出す「ポストバイオティクス」の研究を通じて、肥満、糖尿病、炎症性疾患の予防や改善を目指したヘルスケアソリューションの開発を行っています。大学や医療機関との連携を重視し、科学的根拠に基づいた革新的な技術と製品の提供に努めています。
- - 名称:Noster株式会社
- - 代表者:代表取締役 CEO 北尾浩平
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