静岡大学創造科学技術大学院・バイオサイエンス専攻の徳元俊伸教授の研究チームは、プロゲステロン膜受容体の一種であるpaqr5b遺伝子が嗅神経の形成にどれだけ重要であるかを明らかにしました。彼らは、ゲノム編集技術を用いてpaqr5b遺伝子を破壊したゼブラフィッシュを作製し、その結果、嗅覚受容神経細胞が欠失した個体が誕生することを確認しました。
研究の概要
この研究の中心となったのは、静岡大学の博士課程に在籍していたUmme Habiba Mustaryさんの研究テーマでした。国立遺伝学研究所の技術専門職員である前野哲輝さんと共同で行ったマイクロCTスキャンを通じて、嗅神経の形成異常を確認しました。この成果は、プロゲステロン膜受容体の機能を示す重要な証拠となり、神経細胞の分化におけるその役割を証明するものです。
研究の進行中、徳元教授は、paqr5b遺伝子のノックアウト系統のゼブラフィッシュを観察したところ、頭部に顕著な異常が見られました。その結果、嗅部の構造が異常に小さくなることが確認され、後の詳細な組織観察で嗅神経が完全に欠失していることが分かりました。
研究の重要性
この発見は、プロゲステロン膜受容体が嗅神経の分化にどう関与しているかを示す最初の事例であり、嗅神経が特別な再生能力を持つことを考慮すると、今後の神経再生に関する研究にも重要な示唆を与えます。これにより、プロゲステロン類が神経細胞の形成と分化を誘導する可能性が考えられます。
研究の結果は、2024年10月17日に国際的な雑誌『Scientific Reports』に発表される予定です。論文では、記載された発見がどのように神経科学や生理学の分野に影響を与えるかについても触れられるでしょう。
未来の展望
今後、嗅神経群を失ったゼブラフィッシュにおいて、同種の神経がどの程度の影響を受けるかを検証する必要があります。嗅神経群は発生後に再生できる神経細胞として知られており、その特性を生かしたさらなる研究が期待されます。また、プロゲステロン受容体の役割を解明することは、神経再生医療やホルモン治療に新たな道を開く可能性を持っています。