体の左右非対称性研究の新発見
生物の体は外見的には左右対称ですが、内臓の配置などにより非対称性を持っています。この現象がどのように始まるのかは、未だ解明されていない多くの謎の一つです。最近、熊本大学国際先端医学研究機構に所属する淺井理恵子特任講師らが、ニワトリの胚を用いた研究で、体の左右非対称性が形成される初期段階での細胞の動きに左右差があることを明らかにしました。この研究結果は、今後の医学や生物学の分野での重要な知見となることが期待されています。
研究の背景と目的
左右対称な外見を持つ多くの生物の体内には、内臓の配置において非対称性が見られます。体の左右非対称性は、胚発生の過程で形成される正中線構造物に関連していると考えられてきましたが、その起源についての詳しいメカニズムは謎のままでした。そこで、研究チームは、ヒトと同じ羊膜類に属するニワトリの胚を使用し、顕微鏡下での観察およびライブイメージングによって、細胞の動きを解析しました。このアプローチにより、細胞の動きが左右対称性にどのように寄与するのかを探求したのです。
研究成果の発見
細胞の動きの解析には、流体力学に基づく計測技術であるPIV(Particle Image Velocimetry)が用いられました。この方法により、原始線条という正中線構造物が形成される際の細胞運動に顕著な左右の差異が発見されました。研究の結果、体の左右非対称性は想定されていたよりも早い段階から存在することが示唆されました。
意義と今後の期待
本研究の意義は、動物の胚形成過程における細胞運動の左右不均一性を明らかにすることで、体の構造がどのように形成されるのかという根源的な問いに光を当てるものです。また、この非対称性の不具合が人間の病気にどのように関連するのか、そのメカニズムを理解する手がかりともなるでしょう。細胞の動きに異常が生じることで、臓器形成や免疫応答、がん転移などに重大な影響を及ぼす可能性があるため、これらの知見は医学研究にも新たな視点を提供することが期待されます。
まとめ
熊本大学の研究チームが発表したこの成果は、2023年2月3日に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載されました。体の左右非対称性に関する理解を一層深め、これからの医学や生物学の発展に向けた新たな道を切り開く重要な研究として位置づけられています。今後の研究に注目が集まります。
詳しい研究内容については、
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