新たなTLR7アゴニスト「SA-5」の前臨床研究が示す標的治療の可能性
国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBN)は、慢性感染症やがんの治療に向けて新たに開発した経口摂取可能なToll様受容体7(TLR7)アゴニスト「SA-5」の前臨床における安全性と有効性を確認しました。研究の中心となったのは、同研究所の難病・免疫ゲノム研究センターの山本拓也センター長や高濱正吉サブプロジェクトリーダー、冨山貴央プロジェクト研究員らです。
研究成果のポイント
本研究では、以下の重要な成果が得られました。
- - 安全性の確認: SA-5の反復投与において全身性の炎症反応を抑えつつ、安全に投与が可能であることを明らかにしました。
- - 免疫賦活化効果: 形質細胞様樹状細胞(pDC)を用量依存的に活性化し、Ⅰ型インターフェロン(IFN-α)の誘導を確認。これにより、免疫賦活能の高さが示されました。
- - 従来薬との比較: 既存のTLR7アゴニストであるGS-9620に比べ、SA-5は優れた安全性のプロファイルを持つことが示されました。
- - 年齢に対する耐性: 腎性非ヒト霊長類モデル(カニクイザル)で評価した結果、高齢のモデルでもSA-5の効果がほぼ維持されることが確認されました。
- - PCAによるデータ解析: 主成分分析(PCA)を用いた安全性と有効性の指標が統合され、最適用量の選定に役立つ可能性が示されました。
本研究の意義
本研究は、SA-5がB型肝炎ウイルス(HBV)などの慢性ウイルス感染症に対する新しい免疫賦活薬としての可能性を前臨床段階で具体化したものです。さらに、PCAを用いた解析法は今後の臨床試験における重要なツールとなると期待されています。
研究背景
ウイルス感染症やがんの治療には免疫系の活性化が不可欠です。TLR7は自然免疫システムにおいて重要な役割を果たし、ウイルスのRNAを認識して抗ウイルス応答を引き起こします。しかし、従来のTLR7アゴニストは炎症反応などの副作用が強く、臨床応用が制約されていました。
今回のSA-5の開発は、その安全性と有効性に大きな期待が寄せられています。
研究の詳細
本研究はNIBNと国立健康危機管理研究機構との共同研究で行われ、若齢および高齢のカニクイザルを用いて、SA-5を様々な用量で反復経口投与し、薬物動態、安全性、生化学的指標、免疫応答を詳細に解析しました。評価には血液学的・生化学的パラメータや炎症性サイトカインが含まれ、pDCの活性化やⅠ型IFN産生能も評価されました。これに加え、SA-5のデータは主成分分析を通じて統合的に解析され、安全性と有効性のバランスも視覚化されました。
この結果、SA-5は従来薬よりも高い安全性を確保しながら、安定した免疫活性化能を示すことが確認されました。高齢モデルにおいても有効性はほぼ維持され、加齢による薬効低下は見られませんでした。
今後の展望
SA-5は慢性ウイルス感染症やがんに対する新たな治療薬候補としての道が開かれました。今後のヒト臨床試験では、初期投与量の設定においてPCA統合スコア評価法が活用されることで、更なる成果が期待されます。
この研究成果は、2025年11月11日に米国科学誌「JCI Insight」に掲載される予定です。 緊急を要する慢性疾患の新たな治療に希望がもたらされることを期待しています。